第484話 余裕のある戦い

 《蜥蜴人リザードマン》と一言に言っても種類は色々ある。

 最も知られていて、低級冒険者向けの迷宮でも出現するものは、ただ《蜥蜴人リザードマン》とか、《ノーマル蜥蜴人リザードマン》とか呼ばれるものだ。

 ただし、これらも決して弱い魔物ではない。

 というのは、蜥蜴人は人型の魔物の中でも最も弱いと言われるゴブリンよりもずっと体が大きく、最も小さいものですら人間と同程度あるのが普通だ。

 それに比例して力も強く、かといって素早さが低いということもない。

 また、その体は全体が硬い鱗で覆われていて、弱い攻撃であればそれだけで弾いてしまうほどだ。

 さらに彼らは武術を身につけている個体が多く、それはノーマル蜥蜴人であってもそうなのだ。

 そのため、低級冒険者でも倒せるものもいる、とは言われていても、初心者がいきなりかかっていいような相手では決してない。

 もちろん、ここにいるメンバーからしてみれば、余裕で倒せる程度の存在にすぎないのだが。

 しかし、それも相手が最も低級のノーマル蜥蜴人であればの話だ。

 ここ《転職の塔》の迷宮で出現しているのだから、普通の相手のはずがない。

 そもそも、普通の蜥蜴人よりもずっと大きな体躯をしているし、身につけている武具もかなりのものだ。

 動きもノーマルと比べるとかなり洗練されていて、隙がないように俺には感じられた。

 ただ、あれはまだ魔物図鑑などには載ってないタイプの蜥蜴人のようだな。

 もちろん、以前、相良さんたちが出会っていれば冒険者協会などに報告などはしているのだろうが、多くの冒険者が足を踏み入れる場所ならともかく、最前線の攻略者くらいしか来ないところの魔物は、ある程度情報が出揃ってから出ないと公表されないこともある。

 これは、先行者の利益のためだな。

 人類の存亡がかかっているのに、何が先行者利益だ、という感じだが、冒険者が戦う理由は人類の存亡の他に、そもそもお金がある。

 自分が先に見つけ、倒し方や性質を調べたのに、それが他の奴らがいきなり持って行っては、問題だろう、というわけだ。

 でもまぁ、そうは言っても、ある程度の期間が過ぎればそれでも公表されるのだが。

 この場合の期間は場合によって異なるが、多くの攻略者が足を踏み入れだしたあたりからというのが大半だな。

 そうなると、冒険者の損耗を避けるために公表されるわけだ。

  

 そんなことを考えているうち、みんなが蜥蜴人に襲いかかる。

 速度は俺の補助術でだいぶ上がっているからか、すぐに背後を取ることが出来ていた。

 当然ながら、そもそもの技術や実力があってのことだが……すごいな。

 同じくらいのステータスがあっても、俺にはまだあそこまでのことは出来ないだろう。

 全員がベテランというのはこういうことなのか、とまざまざと見せつけられている気分だ。

 《影供》の三人が蜥蜴人たちを翻弄するように動き、他のメンバーが隙が出来た個体から一撃で倒していく。

 そうして徐々に数が減っていき、最後の一匹になると、ついに蜥蜴人は特攻に出た。

 賀東さんに向かって思い切り突進し始めたのだ。

 しかし、そんな蜥蜴人を真正面から大刀を構えて待ち構えた賀東さんは、蜥蜴人とすれ違い……。


「悪いな、同族なのによ」


 そう呟くと、どしゃり、と相手の蜥蜴人は倒れたのだった。

 

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