第449話 灰色の文字
『……その姿は、《魔王》のそれだな』
ふと、ジャドがそう言った。
「魔王だって?」
『うむ。《魔族》たちの王は、角が三本生えているという話で……まぁ俺は見たことがないのだが』
「じゃあどうして知ってる?」
『《魔族》は、喋れる個体が多かったようだからな。ただし、交流を持てるかと言われるとそれはまた別の話だったようだが。コミュニケーションを取ろうとすると、襲いかかってくる、ということがザラだったようだ』
「凶暴な性質だったんだろうか……まぁ攻撃性が高まるっぽいしな。俺もこうなって分かったよ。なんか、なんでもいいからぶっ壊したい、みたいな感覚がちょっとあるな。理性で抑えきれないというほどじゃないけど」
これは元々、理性的でない人物なら耐えられないような衝動かもしれないとは思う。
《魔族》という種族は、ちょっと選ぶのは危険かもな。
耐えられるようなタイプなら問題ないんだが……。
「その辺の心理的な変化は政府にもしっかり報告しておいた方がいいでしょうね。《魔族》への扉が開かれたと言っても誰でも《種族選択》出来るかは分からないけど、選択肢に現れているからといって、誰でも選択してもいい、とは言えないでしょうから」
「それでも選ぶやつは勝手に選ぶだろうけどな。何せ、身体能力やらの増加が美味しすぎる」
「事後的に、何か犯罪的行為をしたときに、思い刑罰を科するとか、そういう方法で対応していくしかないでしょうね。まぁ、迷宮や冒険者という存在が世に出てから、刑法関係の迅速な整備が進んでいるし、今はさらに対応も早くなってるから大丈夫だと思うわ」
「だといいんだが……」
「そう願うしかないわね……で、次の種族だけど」
「あぁ、そうだな。別に《魔人》種族で変わったところはないっぽいし、すぐに変わるか?」
俺がそう言うと雹菜は、
「……今はやめておいた方がいいんじゃないかしら?」
と言ってくる。
「え、なんでだ?」
「創が《種族選択》したら新しい種族が全人類に解放されたからね。他の種族を選んでもそうなりそうだから……。《魔人》種族を解放した影響がある程度分かるまで、やめておくというのも一つの選択肢だと思うの」
「……なるほど」
《魔人》種族が解放された影響が、世の中にどう出るかは今のところ分からない。
誰でもなれるのかもしれないし、何か条件が満たされない限りなれないのかもしれない。
なれたとして、何の問題も起こさない人ばかりかもしれないし、逆に、魔人の攻撃本能に従って世を乱す事もありうる。
そういうのを見極める時間はあった方がいいのかもしれない。
「納得してくれたかしら?」
俺にそう言った雹菜に、俺は言う。
「話は分かった。でも、そもそも……これ以上選択することは出来ないっぽいんだよな」
「え?」
首を傾げる雹菜に、俺は言う。
「実は、《魔人》になって、《ステータスプレート》を改めて見てみたら、仙人や龍人の項目が、灰色になってたんだ。これって、他の項目とかでも経験あるけど、選択しても表示されない項目の表示なんだよな……」
「本当に?」
「試しに触れてみるか?」
「ええ」
「よし……あぁ、やっぱりダメだ。《条件を満たしていないため、現在は選択できません》って表示される」
さっきまでは普通に白い文字で表示されていたのだが……。
その辺から考えると、《魔人》を選んでしまったから、選択肢が閉じられた?
最初に、魔人、仙人、龍人、のどれかを選べる的なことだったのかもしれないな。
それなら、最初に言ってくれよ、と思うが後の祭りだ。
ただ、条件が満たされてないと言うことだから、満たせばまた選べるようになるはずである。
まだ希望はあるということだ。
「そう言うことなら、仕方ないわね……まぁ、かなり種族については検証できたし、今回はここで終わりということでいいでしょう。あとは、ジャドの職業を選ぶだけね。なんだかついでみたいになってしまったけど」
『俺は構わない。普通にハジメと話せて楽しかったしな。そのために職業取得が必要なら、願ってもない」
ジャドはそう言った。
そして、その後のジャドの職業選択はすんなりと進み、ジャドは日本語の学習能力を高めた。
ギルドに帰る道すがら、少し話したくらいで、単語での会話は可能になったほどだ。
一週間もあれば、日常会話くらいは可能になりそうで、《翻訳士》の語学補正の威力を知った俺たちだった。
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