第450話 転職の塔前

「……おう、雹菜、それに創!」


 《転職の塔》の前に作られた広場で、手を挙げて気さくにそう俺たちに言ってきたのは、賀東さんだった。

 言わずと知れた、ギルド《黒鷹》のリーダーである。

 隣には、副長の世良せらめぐみさんもいて、《黒鷹》の最高戦力を惜しげも無く出してきたのだろうなという感じがした。


「……賀東さん! 暫くぶりですね」


 俺がそう言うと、


「おう、創か。しかし……見ない間にだいぶ腕を上げたっぽいな。それにその見た目……そうか、《魔族》になったか」


 と賀東さんが言ってくる。

 結局、俺が《魔人》を選び、世界にその種族への扉が開かれたとアナウンスされたあと、世界中で当然のことながら、《種族選択》が出来るようになった人間は、《魔族》を試してみたらしい。

 ただし、意外に適合者が少ないというか、外国では《エルフ》や《ドワーフ》、それに《ゴブリン《ノーマル》》は選べる人が多かったらしいが、《魔族》系はほとんどいなかったようだ。

 いたとしても、大半が日本に足を踏み入れたことがある人間ばかりで、そのため、《魔族》系の種族になるためには、日本の国土を踏むのが必須なのではないか、と言われている。

 理由はもちろん全くわかっていないが、他の国に特有の種族もあるようなので、《魔族》もその一環なのだろうと言われていて、そこまで問題にはなっていない。

 

「なんだかんだ、この種族が一番ステータスとかの上昇が良かったんで……賀東さんと世良さんは……?」


「俺は蜥蜴人リザードマンって奴だ。鱗とかスゲェが、面影はあるだろ?っていうか、お前、よく俺が俺だってわかったな」


 確かに、見れば賀東さんの姿はかなり様変わりしていた。

 とてもではないが、人間とは思えない。

 皮膚の表面には青みがかった鱗が生えているし、顔もまさに蜥蜴のそれだ。

 太い尻尾まで生えているし……まぁはっきり言ってモンスターである。

 だが……俺には一目で賀東さんだとわかった。

 その理由は……。


「ここだけの話、俺には魔力が見えるもので……賀東さんの魔力の大きさや流れを覚えちゃってて」


 そう言った。

 本来なら、魔力を見られる、という話は内緒にすべきことだが、これについては《魔族》系の種族になった他の人々が、わずかながらに魔力を見られるようになった、という話があるからもう大丈夫だろう、と考えている。

 俺や雹菜みたいにはっきりと見られるわけではないようだが、近くで見れば個人の魔力の違いを判別できるようなレベルらしいし。

 実際、賀東さんは納得して、


「なるほどな。顔じゃなくて、魔力か。残念ながら、俺みたいな蜥蜴人にゃ、そういう能力はないみたいだが……」


「どうして蜥蜴人を選んだのかしら……?」


 雹菜が若干俺の後ろに隠れつつそう尋ねたのは、蜥蜴がちょっと苦手なのだろう。

 そんな雹菜の質問に賀東さんは応える。


「俺の《種族選択》に現れた種族はエルフとドワーフ、それに蜥蜴人だけだったからな。エルフとドワーフは、検証の結果、ステータスの上昇の仕方が俺好みじゃなかったが、蜥蜴人は中々いい感じだった。具体的には腕力や敏捷、それに剣術系に補正がかかるっぽかった。これから《転職の塔》で戦うにはおあつらえ向きだと思ってよ。あと、鱗は属性系の防御力も上げることを確認してる。レッサードラゴン退治には、うってつけってわけよ」


「そういうこと……賀東さんも、今回のレッサードラゴン退治には本気ってわけね」


「当然だろ。そうしなけりゃ、《転職の塔》の先には進めねぇんだ。一度倒した相手とはいえ……命懸けになる。準備に余念はねぇよ」

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