第451話 影供
「……しかし、考えてなかったぜ。あのレッサードラゴンがまた復活しやがるとは」
賀東さんが歩きながら言う。
「《初期職転職の間》の奥にいた奴ですよね。多大なる犠牲を出しても倒したのに……」
俺がそう言うと、賀東さんは首を横に振った。
「まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないとも思うんだがな。《転職の塔》といえど、結局は迷宮の一つなんだろうさ。そしてあのレッサードラゴンが階層ボスみたいなもんだと考えるとな。復活するのも理解できる」
「それは……そうですけど」
《初期職転職の間》その奥には、さらに奥へと進むことが出来る扉を守る守護者としてレッサードラゴンがいた。
俺たちは以前、それを確認しながらも今倒すことは厳しいと撤退したわけだが、その後、五大ギルドの有志が多大なる犠牲を出しながら倒したと言う経緯がある。
その後、しばらくの間は、さらにレッサードラゴンがいた場所よりも奥の部分の探索が進められていたのだが、ある日、レッサードラゴンが復活してしまったのだ。
倒してから二月後のことだったようだ。
迷宮の再湧出の期間としてはかなり長いスパンだと言えるが、人類のトップ冒険者層にあれほどの犠牲を出していることを考えると、むしろ短すぎるとも言える。
あの程度の魔物は余裕で倒せなければ、奥には進めないということなのだろうか?
だとすればかなり厳しい要求だが……でもやるしかない。
俺が心配気な表情をしていたのか、賀東さんはそんな俺の肩を叩き、
「なんだよ、暗い顔すんな! 一回は攻略してる相手だ。その時よりも冒険者の質だって上がってるし、こうやって《種族選択》って新たな力も得てるわけだしな。やってやれないことはない」
「……そう、ですね」
そうだ。
俺もまた、昔のような無力な存在ではない。
仲間たちだって強くなっているし、人類の地力は確かに上がっているのだ。
だから大丈夫だ……。
そんなことを思って頷くが、
「……あまりにも見通しが甘いのではありませんか、賀東さん」
突然、背後からそんな声がかけられる。
振り返ると……。
「なんだよ、お前か……
賀東さんが微妙な表情でそう言った。
いつものようにように威勢がいいものではなく、なんとなく気を遣っているような、珍しい表情だった。
「賀東さん、彼らは……?」
大智、と呼ばれた青年と、その後ろに控える数人は揃いの黒装束のような装備を纏っていて、全身が黒づくめだった。
同じギルドで武具の色合いなどを揃えたりすることは割とよく行われるが、それでも少しばかり異様だ。
そんな彼らに視線を向けつつ、賀東さんは答える。
「あぁ、こいつらは……ほら、前に話したろ?
「ええ。
「《無色の団》の天沢創です。よろしくお願いします」
「《無色の団》の……最近よく名前を聞くギルドですね。今回のレッサードラゴン退治には参加されると言うことで?」
こう尋ねてきたのは、今《転職の塔》の周囲には大勢の冒険者がいるが、全員がレッサードラゴン退治に出るわけではないからだ。
その後の、深部探索の方をメインに来ている者たちも少なくない。
だが、俺は言う。
「はい。そのつもりです」
「そうですか……以前のレッサードラゴン退治のことは……?」
「聞いています。皆さんのことも……何と言ったらいいか」
「いえ、お気になさらず。ですが、そういうことでしたら、先鋒は我々にお任せください。危険な時は、盾と思って使っていただいて結構ですから」
「え? そんな……」
「あいつをまた倒せるのなら……我々に命はいりません。ですが、貴方のような有望な冒険者の命を無駄に散らすことは良くない。そのために散れるなら、我々も本望です……では」
そう言って、彼らは去っていく。
見ていると、さまざまな冒険者に挨拶しているようだが……。
「はぁ、見ちゃいられねぇな」
賀東さんがため息混じりにそう言った。
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