第452話 心配

「……それってどう言う意味ですか?」


 賀東さんの《影供》の人たちに対する、見ちゃいられないと言う言葉の意味があまり掴めなくて俺は尋ねる。

 もちろん、心配しての言葉なのは分かるが……馬鹿にしたような雰囲気では全くないからな。

 賀東さんはため息をついて答える。


「あの態度だよ。盾でもなんでも使ってくれ、自分たちの命なんて消えてもなんでもない、みたいなこと言ってたろ?」


「そうですけど、でもあれは……」


「いや、分かってる。若いお前にある程度気を使ってるとか、長く冒険者をやってきた者としての責任感からも出てる言葉だってのはな。だが、それだけじゃねぇのも、なんとなく分かるだろ?」


 そこまで言われて、少し理解できた気がした。


「……死に場所を探してるんですか?」


「そういうこった。前も説明したが、あいつらは以前の五大ギルドの残党だ。いずれのギルドもリーダーや副リーダーを失い、奴らは残された。いや、それだけだったらまだマシだったかもしれないが、部下や後輩たちも大量に失ってる。それだけの被害を、レッサードラゴン戦で出してる。冒険者は危険な仕事で、人死にも確かに珍しくはないが……それでも、あれだけ絶望的な被害を出すことはここ十数年の間、なかったこだ。だから色々狂っちまってるんだよ……」


 切ない目で、《影供》の人たちの方を見つめる賀東さん。

 そんな彼に、雹菜が言う。


「……身に覚えがある話ね」


「……お前も、両親を失った時に似たようなことを考えた、か?」


「ええ。だから気持ちは分かる……けどね。そんな気持ちで前線に立つのは良くないわね」


 キッパリとそう言い放つ雹菜には、《影供》の人々が話している時に感じられた影のようなものは感じられなかった。

 すでに、そういうものとは訣別した人間の強さだけがそこにはあるような気がする。

 実際、


「なんだよ、同情か?」


 と言う賀東さんに首を横に振って、


「そんなわけないでしょ」


 と言った。


「じゃあ、なんだ?」


「単純に、危険だからよ。自分を守ろうとしない戦いをする冒険者は、意図しなくても他人をそれに巻き込む可能性があるわ。だから、考えを変えてもらわないと一緒に戦うのは不安なだけ」


「ふっ。まぁその通りだな。だが、これからすぐにレッサードラゴン戦だ。あの化け物は、《初期職転職の間》のすぐ隣の部屋にいる。悠長な説得をしている時間はない」


「かといって、《影供》の人たちの戦力がいらない、とも言えないのよね。いない方が危険なことは、私も分かってる」


「そうなんだよな……ってわけで、あいつらの無茶は俺たちがフォローするしかないな。戦力が下手に落ちないように、うまいことやろうぜ」


「……最初からそのつもりだったの?」


「まぁな。ただ、当然の話だが無茶はしなくていい。あいつらの命とお前らの命が天秤にかかるような場合は、素直に自分の命を守れ。あいつらも文句は言わないって最初から主張してるわけだしな」


「その辺はドライね」


「現実的と言ってくれ。冒険者を長くやるには、それくらいの感覚でないとな……」


「確かにそうね……でも、出来るだけ、人死には減らしたいわ」


「それも当たり前の話だな……ま、適度に頑張ろう。無理な時は素直に諦めて引く。別に今回限りが攻略の機会ってわけでもねぇ。人類も新たに戦力を上げる手段を手に入れてるんだ。そのうち倒せはするだろうからな。出来る限り早く倒したいから挑戦してみるってだけの話だ」


「そうね」

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