第453話 扉の前にて
「……よし、そろそろだな。行ってくる」
賀東さんがそう言って、《転職の塔》の扉の前まで向かう。
するとそこを囲むような形で冒険者たちが集まりだす。
中心には賀東さんと、他に何人かの冒険者がいる。
彼らこそが、今回のレッサードラゴン討伐を指揮するギルドリーダーたちになる。
レッサードラゴン討伐に参加する冒険者の数はかなりのもので、四十人を超える。
レッサードラゴンが居座る部屋は、それが可能なほどの広さを誇り、全員が縦横無尽に駆け回ることも可能だ。
しかし、それだけに戦闘において分散して各個撃破されては意味がない。
だから事前に作戦を立てておく必要がある。
まぁ、すでにそれについてはそれぞれのギルドや冒険者に伝えられていて、皆、頭に入れてはいるのだが、最終確認というわけだ。
「……今日は、よく集まってくれた!」
賀東さんの声が通る。
A級冒険者として顔と名の知られた彼の言葉に、冒険者たちは静かに耳を傾ける。
「皆もよく知っていると思うが、前回の討伐において倒されたはずのレッサードラゴンが、復活した。今日はそれを再度倒す、そのために集まってもらった! 間違いなく、命懸けの仕事になるだろう……倒したとしても、次もまた復活する可能性もあるだろう。だが、やらなければ人類は前に進めない!」
前置きだが、改めて認識させるというのは重要なことだ。
実際、《転職の塔》は人類にとって有用な様々な力を与えてくれている。
しかし、その最も大きな職業について、まだ《初期職》しか解放されていないのだ。
さらにその上があるはずで、それならば出来るだけ早く、それを獲得しなければならない。
そうしなければ、人類は滅亡に近づく。
世界人口は迷宮の発生から徐々に削られ、魔境によって住める場所も減少している。
国家という枠組みが崩壊した場所もあるし、魔物の被害で人類の営みの多くが多かれ少なかれ阻害されている。
そんな状況を打破するためには、シンプルに力がいる。
それだけの話なのだ。
「今日、死ぬ奴もいるだろう。もしかしたら倒せないで戻る羽目になるかもしれない。それでも、俺たちは歩みを止めてはならない! そうだろう!」
賀東さんがそう言うと、冒険者たちは怒号のように「おう!」と返答をする。
それを聞いて彼は満足し、それから、作戦の内容説明に移った。
レッサードラゴンの動きや攻撃方法、パターンなどは既に研究されていて、それに基づいて立てられた作戦だ。
損耗も前回より遥かに少なく済むはず。
そんな説明もあった。
しかし、この場に集まる冒険者たちに命を惜しむような目の者はいなかった。
いるとすれば、俺くらいか?
場違いなところに来てしまった感じはあるが……。
そんな顔を俺がしていたのに気付いたのだろう。
雹菜が、
「……怖い?」
と尋ねてくる。
「……まぁ。大規模な作戦に参加するのなんて、初めてだからな」
「気持ちは分かるわ。私も初めてこういうのに参加した時は、似たようなものだったから。でも、創はその時の私よりずっと強い。少なくとも、自分の命を守れるくらいの力は確実にある。だから一緒に来てもらったの」
「他のみんなは置いてきちゃったもんな……慎と美佳は参加したそうだったけど」
「あの二人はもう少ししたらこういう作戦にも参加できるようになるわ。でも今回は危険すぎるから……」
「ま……そうか。ともあれ、倒せるといいな、レッサードラゴン」
「ええ。必ず、倒しましょう」
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