第563話 持ち場選択

「砦の中と外か。確かに何回か俺も声をかけられたけど……不思議だよな。中で持ち場って、なんだ?」


 俺は竜司の言葉にそう呟く。

 何せ、虫の魔物が攻めてくるというのだから、それは間違いなく砦の外からやって来るということだ。

 それなのに、砦の中?

 これは明らかにおかしいと思った。

 まぁ、中に侵入された時のために中にも人がいた方がいいというのは分かるから、そう考えれば別に変ではないのか?

 いや……。


「確かにそれは俺も気になったな。だが時間も限られてそうだし、考えてもわかりそうな感じはしない。その時になればわかるだろ。どうせ何かしらの敵が来るって思ってれば間違い無いんだからな」


「まぁ……確かにそうか」


 単純にしてシンプルな答えである。

 そうだな。

 メインイベントの求めるのが、砦が落ちないこと、蜥蜴人族の兵士が全滅しないこと、なのであるからそれさえ念頭に置いておけばいいのだ。

 考えすぎて身動き取れなくなるのが一番良くない。

 

「で、創。お前どうする?」


「中か外かの話か?」


「あぁ。どうせだし、俺はお前と逆の選択肢を取ってみようかと思ってよ。その方が後で情報共有しやすいだろ」


「確かにな……まぁ、どっちでもいいわけだし、じゃあ俺は外にしておくよ」


 と言っても、適当に決めたわけでもないが。


「どうしてだ?」


 竜司が尋ねたので俺は答える。


「俺は補助系使えるんだけど、本気で使うとまだ出力がうまく絞れなくてさ。砦の中だと細かい動きの方が大事そうだろ? 外ならそういうのあんまり気にしなくてもいいかと思ったんだ」


「なるほどな。しかし補助系か。羨ましいぜ……俺はそういうのなくてな」


「一時間くらいで切れるのでよかったら、今かけとくか? あんまり強力なの慣れてないのにかけるとまずいから、そこまで強いのじゃないのにしとくが」


 せっかくこうして知り合ったんだ。

 死んでほしくないし、できる限りのことはしてやりたい。

 ただそれなりのランクが高い人間に、さほど経験豊富とはいえない俺ができることはそれくらいしかないだろう。

 これに竜司は、


「お、マジか? ぜひ頼むぜ。一応、普段組んでるパーティーに一人補助系いるから、多少の慣れはあるぞ」


 そう答えたので、


「じゃあちょうどいいな……よし、かけたぞ」


 いくら普段から慣れてる、と言っても俺の全力だと流石に無理だ。

 何せ雹菜はくなですら振り回されるくらいだからな。

 だから、一般的な補助術より少しいい、くらいに抑えておく。

 これでもそれなりのものだ。

 実際竜司は、


「……おぉ、マジでいいな! あれ、さっきそういや一時間切れないって言ったか?」


 普通はもっと短いからこその言葉だろう。

 だが俺は頷いて、


「あぁ。きっかり一時間ってわけじゃないけど、そのくらいだから気をつけておいてくれ」


「わかった。一時間なんてむしろありがたいぜ……じゃ、創。お互い生き残ろうぜ」


「あぁ、そうだな」


 そしてお互いに手を挙げて、反対方向に歩き出す。 

 竜司は砦の中に、俺は外だ。

 王都側ではなく、外側の方だな。

 って言っても、俺がどっちがどっちだかわかってるわけではなく、その辺の蜥蜴人を捕まえて尋ねただけだが。

 

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