第564話 接敵

 砦の外に出ると、かなりの数の蜥蜴人兵士がその場所に集まっていた。

 大体、千人ほどだろうか。

 整列して向こう側を睨んでいる。

 もちろん《虫の魔物》を警戒しているのだろう。

 その中でも指揮官っぽい蜥蜴人に俺は話しかけに行く。


「あの……!」


 すると蜥蜴人指揮官は言う。


「おぉ、これは救世主殿か! よく来てくれた!」


 蜥蜴の顔で笑うも何もないような気がするが、やはり笑った、としか認識できない表情で俺にそう言った。


「救世主……」


 なのだろうか、と一瞬思ったがそんなことを問答している時間もないだろう。

 とりあえず、


「《虫の魔物》が来ると聞いたのですが、私にできることはありませんか」


 そう尋ねる。

 すると蜥蜴人指揮官は言う。


「うむ。今から兵士たちと同じように並んで、というのは難しい。だが、可能であれば遊撃を担当してもらいたい。何人か他の救世主の方々も来たが、ある程度散ってもらって、そのような役目を担ってもらっている。もちろん、危なくなったら下がってもらって構わない。いかがだろうか?」


 かなり気を遣った言い方で、拒否する理由もなかった。

 俺は頷いて、答える。


「はい! では俺はあちらに!」


 周囲を見ると、確かに冒険者らしき人影がポツリポツリと見られたので、冒険者がいない区画に向かって走る。

 蜥蜴人兵士の様子を見る限り、一人一人はそれほど実力が高そうではないのだ。

 もちろん、数の暴力というのは重要だから、しっかりと戦力になるだろうが、この間俺と雹菜はくなが出会ったような《蟲族》の男のような実力者が来れば、簡単に瓦解してしまいそうに思えた。

 それを避けるためにも、一定間隔で冒険者がいた方が良いだろうと。

 俺が間に入り込んでも、蜥蜴人たちの兵列は乱れることはない。

 しっかりとその場に立って、警戒を続けていた。

 そして……。


「来たぞ! 構えろ!」


 先ほどの蜥蜴人指揮官の声が響く。

 向こう側から、砂埃を上げてこちらに向かってくる、巨大な《虫の魔物》の群れがそこにあった。

 そして……。


「やっぱりいるか、《蟲族》……!!」


 《虫の魔物》の間や、上などに何人かの人型の存在が確認できる。

 《虫の魔物》は大抵が巨大で、まるで人間とは似つかない形をしているため、人型は《蟲族》で間違い無いと思う。

 やはり魔力などはほとんど感じないが……強いはずだ。

 しかし引くわけにもいかない。

 メインイベントを達成なくては。

 そして、とうとう蜥蜴人軍と《虫の魔物》たちとの戦いが始まった。


 *****


 さほどの実力ではなさそうだ、と当初考えていた蜥蜴人族であったが、実際にはかなり戦えていたので予想外だった。

 しっかりと隊列を組み、確実に《虫の魔物》を潰していく様子は、慣れているな、という感じである。

 考えてみれば、俺たちはまだほとんど慣れてなくて、トリッキーな動きやスキルに翻弄されてしまっていた感がある。

 ある程度行動を読めるように慣れば、これくらいの簡単さで倒せるのだろうなと。

 

 ただ、それでも《蟲族》についてはその限りではなかった。

 

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