第565話 蜂

 その《蟲族》は、黄色と黒の特徴的な色彩を持った体を持っていた。

 そして、背中にははねが、そして腹というか、お尻の部分には鋭く尖った毒針が見える。


「……蜂の《蟲族》ってことか」


 そいつは縦横無尽に戦場を飛び回り、蜥蜴人たちを切り裂いていく。

 意外にも毒針を使う様子はなく、両手に持った短剣で攻撃しているようだった。

 蜥蜴人たちは空を飛ぶそれに、攻撃する手段が少なく、対応が難しいようだ。

 冒険者たちも狙って術を撃っているが、早すぎる為に命中しない。

 放置しておくとやばそうだな。

 俺はそう思って、空中に足場を作る。

 《風術》系の擬似スキル……つまりは《天沢流魔術》であり、空気を固めてその場に揚力を生み出すものだ。

 細かな原理は分からないが、使っている冒険者を見たことがあるので、真似して可能にしていた。

 魔力自体を固めて足場にする技術もあるにはあるのだが、あちらに比べて魔力消費が少なく、かつ指向性を持たせて加速できるのでこういう場合にはこちらの方が有効だ。

 飛び回る蜂の《蟲族》の方に向かって、俺はいくつも足場を作り、加速していく。

 幸い、補助術によって強化した身体能力は、素早く動く蜂の《蟲族》相手でも十分に視界に捉えることが出来ていた。

 俺は大剣を振りかぶり、そして蜂の《蟲族》に向かって横薙ぎにする。


「え!? うわっとっと!!」


 蜂の《蟲族》は俺が直前まで近づくまで気づかなかったようだが、流石に大剣の圧力は感じたらしい。

 急に旋回して器用に避けた。

 けれど、その顔にかすり、傷をつけることに成功する。

 出来ることなら、今の一撃で終わらせたかったところだが……欲張りか。

 あまり余裕を与えてもいいことはなさそうなので、俺はそのまま距離を詰めて大剣を振い続ける。


「き、君ねぇっ……あっ、や、やばっ……!!」


 蜂の《蟲族》は色々なことを叫んでいたが、俺は一切返答はしなかった。

 する意味もないというのもあったが余裕がないというのが一番大きかった。

 やはり自力飛行しているのと無理に足場を使って移動している俺との差が出ていて、小回りは遥かに向こうの方が効くのだ。

 どうにも器用に避けられてしまうので、息つかせぬ猛攻しか俺には選択肢がなかった。

 それでも致命傷は与えられないと向こうは感じたのか、徐々に笑顔になっていったが……。


「君に僕を倒すのは無理みたいだね……え、あれっ……」


 一瞬、その場に止まって油断した瞬間を俺は見逃さなかった。

 小さめの《風術》を奴の羽の付け根あたりに放ち、バランスを崩させる。


「あ、ちょっと待っ……」


 それが奴の最後の一言だった。

 俺は思い切り大剣を振るい、その首を吹っ飛ばす。

 すると翅はしばらく動き続けたが、徐々に動きを緩め、そしてそのまま錐揉みするように墜落していった。

 頭の方は地面に落ちていったが……。


「……まだ生きてやがる」


「……全く。こんな死に方なんて……」


「どんな生命力だよ……」


「そう言われてもね。あぁ、早く止め刺してよ。それともこのまま持ってく?」

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