第566話 蜂の《蟲族》

「持ってくって……首だけ持っていって何になるっていうんだ。大体、しばらくしたら流石に死ぬだろお前」


 首だけになった蜂の《蟲族》の……少年?少女?に俺はそう言う。

 死にかけの敵と戦場で一体何を話しているんだろうかと思うが、もはや死ぬからこそ最後くらいはという気持ちもどこかにあったのかもしれない。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らないでか、蜂の《蟲族》は俺に言う。


「まぁねぇ。十分くらいしたら死ぬかなぁ……でもほら、その間はアドバイスとか出来るよ。あいつは危ない!とか、あいつはこういうことするよ!とか」


「……アドバイスって。《蟲族》との戦い方をか?」


 俺が思わず身を乗り出して尋ねると、蜂の《蟲族》は、お、という表情で微笑み、言う。


「その単語を知ってるってことは、あれだね。トープスが言ってた二人組の一人だ! 女の子の方に気をつけろって言ってたんだけどなぁ」


 聞いたことがない単語だったが、ハッとして俺は尋ねる。


「トープス? それってまさか……」


「うん。《甲虫支族》の戦士だよ。覚えてない? 戦ったって言ってたよ。あと負けたから恨みつらみがすごいあるって。次あったら絶対殺すって。ははは」


「そんな恨んでたか……」


「プラムス……《蝶支族》の娘に助けられるなんてことになったことも死ぬほど恥じてたからねぇ。仕方ないよ。でもほら、僕なら彼らをよく知ってるし、攻略法を教えてあげられるよ?」


 ここまでだけでも、この蜂の《蟲族》は結構な情報をくれている。

 それを考えると、話に乗ってもいいような気がしてくるが……しかしだ。


「……どうせ十分で死ぬんだろ? そこまでひたすら喋ってもらうしか出来ないんだが」


 喋るだけ喋らせて死んじゃったね、はちょっとひどい気がする。

 いや、もうそういう結末しかないのはわかっているが、だったら静かに死なせてやった方がまだマシのような気も。

 感傷にすぎないか。

 そんな俺に蜂の《蟲族》は言う。


「別にそれでもいいけど。どうせ死ぬんだし? あぁでも、もし時間が足りないこと気にしてるんなら、魔力くれればいいよ。魔力が供給されてる間は死なないからさ」


「魔力……でもお前ら、あんまり魔力なさそうだが」


「感じるの? 確かに体にはほとんど持ってないけど、それは魔力を摂取して、僕らの力……《蟲気》に変えてるからだね。だから魔力をくれれば、《蟲気》が多少充填できて、その間、頭だけで生きるくらいは出来るんだよ」


「どんな生態だ……」


「そう言われてもなぁ……あっ、やばい、そろそろ気が遠くなる……ちょっとだけ魔力をくれないかな。君たちの……あの術一回分くらいの量で、五分くらい伸びるから……」


 ちらり、と誰かが使った術を見て言う。

 本当に、どうしたものか。

 やって何か問題が起こらないか、気になった。

 だが……まぁ、その時は責任とって殺せばいいか。

 さっき普通に勝てたわけだし、今のこいつは飛べるわけでもない。

 だから……。


「いいだろう。まずは少しだけ、分けてやる」


 そう言った。

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