第562話 持ち場

 しばらく俺は砦を走り回った。

 名前はアッシェリア砦、だったか?

 王都ナビヘカからかなり離れた位置にある最前線の砦であるらしい。

 多分、俺たちが今まで出入りできていたエリアではないな。

 どうやってもいけなかった、透明な壁の向こう側にあるエリアだと思う。

 位置は地図とか見たかったが、砦のどこかにあるらしいがそこまで案内してくれる蜥蜴人はいなかった。

 別に不親切、というわけではなく、いつ《虫の魔物》がやってくるか分からないからその余裕はないという話だった。

 まぁ仕方があるまいという感じだ。

 それと、何人かの冒険者と出会うこともできた。

 竜司と話した時と同様に、情報収集とその共有などをお互いに約束し別れた。

 一緒に行動しよう、という話にならなかったのは、砦がかなり広く、全体を把握しようとすると別れるしかないというのがまず一つ。

 そしてここに呼ばれるような冒険者はC級以上であるから、皆、個人でも十分に行動することが出来るだけの能力を持っているから、というわけだ。

 じゃあ俺は、って話になるが、俺も雹菜から色々叩き込まれているからな。

 もうステータスだけ妙に高いだけの存在というわけじゃない。

 いざとなれば攻撃系も補助系も擬似スキルも色々と手持ちがあるのだから、むしろ普通より出来ることは多いはずだ。


「……とはいえ一人は不安だけどなぁ……やれるかな?」


 《虫の魔物》に対する恐怖、というよりメインイベントをしっかりと進められるかなという不安が強い。

 この砦を守りきれということだが、どの程度の敵がどれだけの数来るのかも今はまだわからない。

 一応、砦の中を歩き回っていると、何人かの蜥蜴人に持ち場の協力を求められた。

 ここを共に守ってはくれないか、みたいな感じで。

 あれに頷くとそこで戦う感じになるのかな、とか思った。 

 誘い方がみんな似ていたからな……そこだけNPC感をちょっと感じだ。

 それ以外の会話はむしろ高度なAIの如くというか、普通の人間を相手にしているのと変わらないだけに、何か妙なものを感じたな。

 まぁそれを言うならこのフロア自体おかしいが。

 この蜥蜴人の国は、あるのか、ないのか……考えたくなる。

 ゴブリンの世界のようになくなってしまったのか、それともまだ限定的に残っていると見るべきなのか……。 

 分からん。

 とにかく、俺に出来ることは、メインイベントの求める通りに、なんとかこの砦を守るしかない。


「おう、創!!」


 しばらく歩き回っていると、向こうから竜司が手を挙げている姿が見えた。

 俺は走って駆け寄る。


「竜司! 何かわかったか?」


 尋ねると、


「どうも、持ち場を決めてそこで戦う必要があるらしいな。他の冒険者とも何人かあったが、すでに持ち場を決めたやつもいる。決めると一定範囲から出られなくなるみたいだ。それがずっとなのか、そうではないのかはまだわからねぇが」


「やっぱりそういうことだったか。竜司はまだ決めてないんだな、持ち場」


「あぁ。持ち場は大きく分けて砦の中か外の二種類があるみたいでな。悩んでるところなんだ」

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