第561話 相談と現状把握
とにかく周囲を観察していると、冒険者が一人いるのが見えて、俺はそちらに駆け寄る。
「おい! あんた」
するとその冒険者は数秒茫然とした顔をしていたが、すぐにハッとして、
「あ、あぁ……! ここは……蜥蜴人の?」
と聞いてくる。
どうやら状況をはっきりと分かっていないのは彼も同様のようだった。
俺は頷いて、
「あぁ、そういうことだろう。俺はさっきまで東京のマンションにいたんだが、急に光に包まれてここに飛ばされた。あんたも?」
と尋ねる。
すると男もぶんぶんと頷いて、
「俺も同じだ……! つまりこれは、そういうことなんだな……そうだ! 《ステータスプレート》!」
そう叫んで、《ステータスプレート》を出現させてその内容を見て目を見開く。
「どうした!?」
「いや、あんたも見てくれ」
そう言って自分の《ステータスプレート》を示した。
するとそのメインイベント欄に、
蜥蜴人王の依頼:《虫の魔物》の襲撃が始まった。蜥蜴人王からの召集に君たちは応える。それぞれの持ち場において《虫の魔物》を撃退しなければならない。君の持ち場は、アッシェリア砦だ。敗北条件:蜥蜴人族の兵士の全滅、もしくは砦の崩壊。達成度《★★☆☆☆》
との表示があった。
これは以前とは明確に異なる記載だ。
前は、
蜥蜴人王の依頼:謎の場所から湧き出る《虫の魔物》について、蜥蜴人王は憂いている。救世主と看做され、その討伐及び和解を依頼された君たちのは、そのために奔走することになる。達成度《★☆☆☆☆》
そういう風に書いてあったはずだから。
「つまり《メインイベント》ってことか……こんな風に強制的に呼ばれるなんて思ってもみなかったがこうなったらやるしかないのか」
俺がそう呟くと、男も、
「そうみたいだな……ここまでくりゃ、腹はくくれたよ。さっきから声を聞いてるが、向こうから来てるっぽいな」
かなり落ち着いた様子でそう言った。
なんだかんだ、このフロアに足を踏み入れている時点でC級以上はある冒険者ということになる。
つまりは冒険者の中でもプロと言っていい存在だ。
「かなりの気配は感じるが……まだ見えていないな。とりあえず情報収集か。あ、あんた、そう言えば武具の類は平気か」
俺が男の格好を見て尋ねる。
彼が着てるのは、どう見てもパジャマだからだ。
男はそんな俺に笑って、
「問題ないよ。しっかり収納袋持ってるからな。あんまり容量は大きくないが、こういう時のために肌身離さず持ってる」
そう言って袋を示し、そこから武具を取り出してすぐに着替えた。
さすがだ。
「こういう経験が?」
「流石に地上にいる時に転移させられたことはないが、迷宮の中じゃそういう罠もあるからな。食料とかその他は絶対に持ってないといけないって感覚はある。他もこのフロアまで来る連中はそうだろうさ。ただあんたの話を聞く限り、俺の場合、飛ばされる直前までぐっすり寝てたのがダメすぎたみたいだが」
確かに少し時間があった。
その間に色々準備は可能だったからな。
「これからどうする?」
俺が尋ねると、
「とりあえず現状把握したいから、二手に分かれて蜥蜴人の兵士から色々聞いた方がいいんじゃないか? あとは他に冒険者いたら情報の共有だな。あんた、名前は? 俺は佐藤竜司だ」
「俺は天沢創だよ。じゃ、その方針で」
「あぁ、生き残ってやろうぜ」
そして俺と竜司は握手をして、そのまま二手に別れる。
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