第560話 急変

「……ッ!?」


 真夜中。

 家で……というか、雹菜のマンションに与えられた自室で眠っていると、急に頭の中に警報が鳴ったような感覚がして俺は飛び起きた。

 そしてすぐにリビングに行くと、そこには既に目覚めていたらしい雹菜がテレビをつけ、周囲を見渡し、さらにマンションのベランダから外を見たりしている姿があった。


「雹菜!」


 俺がそう呼びかけると、彼女は、


「創! やっぱり、何か感じたわよね? あ、着替えておいたほうがいいわよ!」


 そう言って俺の装備一式を投げてくる。

 大体は収納袋に入れておいているが、インナーの類は毎日普通に洗濯して変えてるからな。

 とにかくさっさと着替える。

 テレビでは特に速報のようなものは流れていないし、ベランダの外から見える東京の景色も、真夜中の少しばかり静かなそれでしかなかった。

 それだけに、先ほどの出来事が異様で……。


「……何も、起こらない? そんな筈は……」


 雹菜がそう呟いたとほぼ同時だろうか。

 俺と雹菜の体が、何か光に包まれるのがお互いに見えた。


「これは……雹菜!」


 俺は手を伸ばし、雹菜の手を掴む。


「創……これって……」


「分からない。だが、攻撃的なものは何も感じないな……いや、迷宮の転移陣に近い……?」


「どこかに飛ばされるってことね……手を繋いでいても離れ離れになる可能性があるわ。その時は、決めておいた合流地点に。逼迫した状況ならその限りではないけどね。臨機応変にやりましょう」


「あぁ」


 何が起こってもいいように、迷宮やフロアごとに分断された場合の合流地点は決めてある。

 行ったことのない迷宮とかフロアとかだとどうにもならないが、そういう時は一番近いところに、という次善の策を決めてるからなんとかなるだろう。

 問題は、いきなり強大な魔物と戦わせさられる場合だが、その時はもう腹を括るしかない。

 俺の場合、そういうことが結構あるからな……おそらくは《オリジン》故に。

 今回のもそれなのかどうかは分からないが。


 そして、俺と雹菜を包む光は徐々に強くなっていき、視界は真っ白に染め上げられたのだった。


 ******


「……ここは、どこだ」


 まず飛ばされて、俺は周囲の観察から始める。

 と言っても、どうも周りが五月蝿いな……。

 多くの人の怒号が響いている。


「敵襲だ!」「あいつらが来た!」「持ち場を離れるな!」「守れ!」


 そんな声だ。

 一体誰がどこで何を言っているのか、と思って周囲を見ると、ここはどこかの石造りの建物の上のようだった。

 ……どこかの砦か?

 かなり細く長いのが見て取れる。

 また、砦の屋上部分に自分がいるのもわかる。

 そこを走り回っているのは……蜥蜴人の兵士だな。

 ということは、ここはやはり蜥蜴人族のフロアで間違いなさそうだ。

 周囲に冒険者の姿はちらほら見えるが、知り合いの顔はない。

 雹菜ともやはり、離されてしまったらしい、というのわかった。

 この感じだと、彼女と合流するために後方にというのも中々難しそうに思えた。

 砦の場所が正確にどこなのかわからないし。

 ここには来たことがないんだよな……。

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