第559話 配慮

 それからしばらく、四人で街中を歩き回った。

 他にも樹とか静さんとか、他のギルドメンバーたちも連れてこられたら良かったな、とは思ったものの、なんだかんだこのフロアの敵は強敵だ。

 流石にステータスやスキル的にC級に至っていない面々を連れてくるのは怖いというのが会った。

 だから慎と美佳くらいが今のところは限界だな。

 まぁ早いところ連れてこられるように、他のメンツのステータス上げも頑張っていきたいところだが、まずは斥候をというのもあって初音が優先である。

 初音の腕が上がれば、彼女に他に斥候を育成してもらったりも出来るからな。

 ギルドとしてはギルド全体の底上げを図っていきたいので、そういう判断にならざるを得ない。

 

「……今日はこんなところか?」


 俺がそう言うと、雹菜が頷く。


「ええ、いくつかサブイベントも受けてもらったけど、危なくなったでしょ? 二人とも、このフロアの感じもわかったでしょうし」


 慎と美佳には、ここで街中だけで完結すると思しきサブイベントを経験してもらった。

 掃除をしろとかそういう系だな。

 明らかに外には出ないタイプだ。

 若干の罠というか、そんな名称のサブイベントでもいつの間にか街の外に出ざるを得ないようなものも確認されているらしいので注意しないといけないが、今日はそういうことはなかった。

 まぁもしそういうのがあっても、サブイベントを受けたまま、放置するとか、あえて失敗して終わらせる、という方法もあるので大丈夫なのだが。

 今回はとにかく安全重視だったから、その覚悟も決めていたが、幸い問題はなかった。

 

「あぁ、結構面白かったな。それに俺も美佳も思いがけずスキルもゲット出来たし。《洗浄》とか《湯沸かし》とか、地味に役立つ系ばかりだけど」


 慎がそう言った。

 続けて美佳も、


「料理とか掃除とかそういうサブイベントばかりだったからだろうね。それこそ街の外に出る系のを受けてたら、戦闘系のスキルも得られてたのかな」


 そう尋ねたので、これには雹菜が答える。


「ええ、そういう傾向があるのは確かね。でも街中でも戦闘系スキルを得られることもあるから、割合の問題になるわ。今回はついてなかったってことになるかしら」


 しかし美佳は、


「ううん。そんなことはないよ。迷宮に長く潜ってると、お風呂入りたいとか、食事もちゃんとしたの食べたいとか思うけど、術を操ってそれをやるのって結構面倒くさかったし……そういうのが一発で解決できる系のスキルが多かったからむしろ運は良かったかな」


 そう言った。

 言われてみると、確かにサブイベントで得られる地味系スキルは迷宮内に長くいればいるほど、ありがたみを感じるようなのが多いな。

 迷宮の配慮なのだろうか。

 ドロップ品とかが人間の役に立つもの、オーク肉とかそういうのが使いやすいように包装されて出てくる時点で、そういう謎配慮があるのは今更ではあるが。


「ま、そういうことなら良かったわ。じゃあ今日は戻りましょうか。次来るときは、街の外に出て二人のステータス上げとか頑張りましょ」


 雹菜がそう言って、今日の探索は終わったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る