第128話 《卵》の扱い

「美味かったって……」


 霊力とか精霊力、魔力を食材みたいに……って、まぁ、やっぱりそういうことなんだろうな。

 さっきから薄々俺たちも感じていたことだ。

 その理解を元に、雹菜が梓さんに言う。


「さっき私たちも話してたんだけど、この卵は……霊力とか魔力を、食べたってことでいいかしら?」


 これに梓さんは頷いて言った。


「うむ……わしら妖人のなかにも、珍しい方じゃが、卵生の者もいてのう。そういった者たちの《卵》は、周囲から霊力や精霊力を吸収するでな。これもまた、同様なのではないか、と思う」


「じゃあ、これは妖人の卵なんですか?」


 慎が尋ねると、梓さんは意外にも首を横に振って答える。


「……いいや。おそらく違うじゃろう。先ほども言ったが、妖人の卵は、霊力を主に吸収し、そのほかには自然の力……精霊力に近いものを補助的に吸収するだけじゃ。じゃが、この《卵》は……」


「魔力を吸収した、と。そして今は霊力も精霊力も吸収する気配がないってことですか?」


「精霊力の方は紬たちに聞かねば正確なところはわからんが、おそらくはそうなっておるのではないかと思う。迷宮の外に出れば、わしにも自然の気配は感じ取れるから、わかるじゃろうが」


「……だったら、とりあえず迷宮を出ましょう。梓さん、私さっきも言ったように……」


「おぉ、そうじゃったな。気にすることはない。しっかりとわしが出口まで露払いする故な」


「助かります……どうぞ、よろしくお願いします」


 普通に話す時はタメ口だが、この頼みはしっかりと敬語で行った雹菜だった。

 俺たちもそれに合わせて、頭を下げた。


「お主ら、別にそんな畏まらんでも良い。今回の依頼を、こうして達成してくれたのじゃからな。これくらいのことはいくらでもしようぞ」


 *****


「……やはり、自然の力を吸収はしておらんようじゃな。お主らから見てどうじゃ?」


 迷宮を出ると、そこには入り口を守っていた妖人二人の他に、紬と依城さんが待っていた。

 里で待っていればよかったのに、ここに待機していてくれたらしい。 

 梓さんはそんな二人に質問したのだ。


「……急な話についていけないけど……精霊力は確かに今のところ全く乱れてないわね。それが原因って、本当? 実際、なんともないけど……」


 そう言って俺に近づいてくる紬。

 しかし、途中で、


「……あだっ」


 と、静電気に触れたような顔をして下がる。


「どうしたんだ?」


 俺が尋ねると、紬は、


「精霊力はなんともないけど、魔力を無理矢理引き出された感じがしたのよ……で、びりっとね」


「なるほど。そんな感覚なのか。俺と雹菜は痛みはなかったけど……」


「よくわかんないけど、相性でも良いんじゃない? 《卵》はともかく、迷宮品の魔道具だと、その魔道具自体に認められないと触れられなかったり、触れようとしたら電流が走ったみたいに痛みを感じたりするって例はありがちだからね」


「これもそんなようなもんってわけだ……にしては、手加減なく雹菜から魔力奪ったもんだけど」


「干からびなかっただけ、マシね。さっきの魔道具の話だけど、一気に魔力吸われてショック死、なんてこともあったらしいから。雹菜くらいの魔力量でそんなことはまず起こらないはずだけど……それ、相当な品なのかもね……」


 恐ろしいものを手に入れてしまったような気がする

 しかも、今のところ俺しか触れないのだ。

 みんな俺からは距離をとっていて、もしかしたらこれがずっと続くのか?

 そう考えるとつらい気がした。

 手放さなければぼっち生活が始まってしまう。


「は、雹菜、これって……どうにかさっさと売っ払うわけにはいかないのか?」


 切羽詰まった俺の言葉に、雹菜は難しそうな表情で、


「うーん……武具なら、すぐに買い手もついたかもしれないだろうけど、《卵》じゃあね……。それに詳細が全然分からないから、呪いの品扱いされてしまうかも」


「そんな……」


「でも、そこまで心配しなくてもいいんじゃない? それが《卵》だっていうなら、そのうち孵るでしょうし……気長に待てば」


「その気長に、が何年何十年だったらどうするんだよ……」


 ぼそり、と言った俺に、梓さんが、


「確かにそのようなこともありえんとは言えんな……心配なら、ほれ。《鑑定士》に鑑定を頼むという手があるじゃろ」

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