第127話 祀られていたもの

 社の中にあったのは……。


「……なんだろう、これ。石……?」


 そう言って雹菜が社の中に手を伸ばす。

 そして手に持つと目を見開いて、


「やっ……な、何これ……!」


 と叫び、がくり、と地面に膝をついた。

 見れば、彼女の体の中から、ものすごい勢いで魔力が彼女の手に持った物体へと流れていくのがわかった。

 俺は慌てて、


「雹菜!」


 と声をかけながら、彼女の手の中の物体を奪い取る。

 考えている暇はなかった。

 そしてすぐに後悔した。

 その物体……球体状の石のようなものは、俺からも魔力を吸収し始めたからだ。

 しかし……。


「……いや、止められる……はずだ……っ!」


 器用と精神が異様な数値になっている俺だ。

 魔力の扱いにだけは、誰よりも自信があった。

 吸い取られていく魔力、その流れを堰き止める。 

 それを俺なら出来るはずと、瞬間的に思い、そして実際に実践してみた。

 すると、


「ぐぐぐ……ぁぁっ!!」


 徐々に流れが弱くなってき、そして……。


「……止まった……? 創! 大丈夫なの……!」


 と、雹菜が声をかけてくる。

 ただ、あまり近づいては来ない。

 俺を心配していない、というわけではなく、近づくことによって魔力を再度、吸収されてしまうことを警戒してのことだろう。

 慎と美佳は状況がよくわかっていないからか、俺の方に近寄ろうとしていたが、それも雹菜が腕で止めていた。


「雹菜さん! どうして止めるんだ!?」


「創は……大丈夫なの!?」


 二人はそう言って心配げに俺に視線を向けてきているので、とりあえず、俺は笑って、


「いや、大丈夫だ。ただ、とりあえずみんなはそれ以上近づかない方がいい。理由は……なんて言えばいいのか。こいつ、俺と雹菜からありったけの魔力吸い取ってきたからさ……」


「あぁ、だから止めたのか……でも、それじゃあ、全然大丈夫じゃないんじゃ。急激な魔力の減少は命に関わることもあるって……」


 慎がそう言ったので、俺は首を横に振った。


「俺の魔力の扱い、知ってるだろ。なんとか魔力を吸い取られるのは止めたよ。雹菜は……どうだ? かなりたくさん吸い取られた感じあったけど」


 俺と違って、彼女は流れを止めることは出来なかった。

 つまり、俺がこれを奪い取るまで、魔力を持っていかれ続けたのだ。

 正確に量は測れていないが、相当な量だったことは分かる。

 雹菜は、


「まぁ……残ってた魔力の三分の二位、いかれたわね……ちょっと苦しいわ……」


 そう答えた。

 実際、そのことを裏付けるように息が荒い。


「帰り道は大丈夫か?」


「まぁ、戻るだけならなんとかなるでしょ。外には梓さんだっているし、申し訳ないけど頼らせて貰えば……」


「そうか……しかし、こいつは一体なんなんだ?」


 俺は改めて、それ・・を見る。


「ボールみたいな、石、だよな……いや、石っていうより……」


 慎がそう言い、続けて、


「……卵みたいだね?」


 美佳がそう言った。

 その言葉にまるで反応したように、石から、どくり、とした鼓動のようなものを感じた.

 同時に、魔力の引きが強くなったので、俺は再度強く魔力を制御し、吸い取られないように調整する。


「……卵、か。そうかもな。だから魔力を吸収してる……?」


「ありそうな話ね。それに、多分だけど、それが梓さんたちが力を振るえなかった理由じゃないかしら? 私たちが魔力を引かれたように、霊力を引かれて……」


「なるほどな。精霊力も同じ、かな? でもだったら、俺たちも魔力を乱されてもおかしくなかったはずだが……」


「その辺はなんとも言えないわね。とりあえず、ここを出て、梓さんに聞いてみる?」


「いや、その必要はないのじゃ」


「えっ!?」


 声に驚いて振り返ると、そこには梓が立っていた。

 気配をまるで感じられなかったが、彼女の実力なら、さもありなんという感じである。


「どうしてここに……大丈夫なのか?」


 俺が尋ねると、梓さんは、


「うむ。今は全く問題ない。今なら、他の妖人が迷宮に入っても大丈夫じゃろうて」


「つまり、霊力はもう乱されてない?」


「うむ」


「どうして……」


「おそらくじゃが、その玉……卵か? が原因じゃったので間違いなかろう。で、さっきまでわしらの霊力を吸い取っておったんじゃろうが……お主らが魔力を吸い取られた後から、それが全くなくなったのじゃ」


「うーん……?」


「つまりじゃ。霊力より魔力の方が、うまかったんじゃないかの?」

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