第126話 ドロップ品回収

「とりあえず《鬼》の体はどこが素材として使えるか判断しかねるから、全部持ってくわよ」


 雹菜がそう言って、収納袋の口を向けると、あれだけの巨体がその場から消えてしまった。

 収納袋の力である。

 基本的に生物は入らないのだが、死亡した生き物はあくまでも《もの》と判断されるようで、入れることができる。

 まぁそうでなければ、素材を収納袋に入れるなんてことは不可能だからな。

 当然のことと言えた。

 ただ、理屈とか考え出すとわからないが……。

 いくら死亡したと言っても、細かく細胞の動きなどを見たらまだ《生きている》と判断されるような部分も残っているだろうに、死亡してすぐにでも収納袋に入るのだ.

 説明がつかない。

 そんなことを考えるのは、別に俺たちの仕事ではないけどな。


「後は……あ、やっぱりドロップ品はあれね!」


 美佳が《鬼》が消えたところに現れたドロップ品を見て、そう言った。

 そこに残っていたのは……。


「……金棒か。どれ」


 そう言って慎がそれを持ち上げる。

 大きさは《鬼》が使っていたものとは違って、通常の人間が振るうことができそうなサイズである。

 そうは言ってもかなり巨大であるのは間違いないが。


「……おいおい、相当重いぞ、これ! 身体強化かけても……」


 鉄で出来ているとしても、あのサイズならステータスと身体強化によって慎に持てないはずがない。

 まぁ、一応持ててはいるが、それでも重いと感じるということは……普通の金属で作られてはいない、ということだろう。

 

「使えそうか?」


 俺が尋ねると、慎は難しそうな表情で、


「……いや、無理だな。そもそも、俺は剣とか槍の方が性に合ってるよ。流石に金棒ってのもなぁ……お前が使うか?」


「俺だって金棒はちょっとな……。しかも相当重いんだろう……うわっ」


 渡されて確かめてみても、俺にとっても重い。

 これを使うのは難しいな。


「無理無理。雹菜、しまってくれ、これ……にしても使えるやついるのかな?」


 金棒を地面に置くと、雹菜はそれを収納袋にしまった。

 あれに入れると重さは完全に無視される。

 袋自体の重み以外は何も感じないのだ。


「珍しいし、オークションにでもかければ売れるでしょ。メイスとか打撃系武器を主に戦う人はいるしね。S級にもいたはずだから、コレクションがてら高値で買ってくれるのを期待しましょ」


「そうだな……後、他のドロップは……」


「細々とした回復薬とかがあるわね……グレード高いのもいくつか。悪くないわ。ただ、大きなものは金棒だけみたい。あのパンツとかもあるかと思ったけど……また戦えば出るかしら?」


「欲しいのか、鬼のパンツ」


「何か特別な効果ありそうじゃない。もちろん私が履くわけにはいかないけど……二人には意外と有用かもしれないわよ」


「うーん……慎、ドロップしたら履くか?」


「まぁ、効果が高いならな。ズボンで見えなくなるんだからいいだろ別に」


「そうか……確かにそうだな」


 あまりに派手すぎるので妙な忌避感が湧くが、それもそうかもしれない。

 そして、落ちているドロップ品を全て回収し終わると、


「じゃあ、最後に……」


 雹菜がそう言って視線を向けたのは、鬼が守っていた社のようなところだ。

 この迷宮自体、神社の境内のような感じだったから、その存在は自然に見えた。

 ただかなり小さく、人が入れるような大きさではない。

 その辺の道路を走ると、脇道に小さくあるような社、と言った感じだ.


「……なんかこの戸を開けるの、罰当たりじゃないか?」


 俺がそう言うと、慎も頷いて、


「確かになんか祟りそうな気もするな……」


 そう言った。

 しかし女性陣は、雹菜も美佳も、


「祟りなんて迷宮で確認されたことはないわよ。呪いはあるけど……解呪が出来るし」


「中身気になる! ここまで来て開けないなんてありえないよ!」


 と完全に開ける気満々だった。

 まぁ、確かに開けないわけにはいかないから、彼女たちが正しいだけどな。


「じゃあ、開けるか……」


「怖いなら、私が開けるわよ……」


 そう言って雹菜が扉に手をかける.

 すると少しフラついたので、


「どうした?」

 

 と尋ねると、少し考え込んで、


「……うーん、気のせいかしら? 大丈夫」


 そう言って、その社の戸に改めて手をかけて、開いた。

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