第125話 《鬼》のしぶとさ
とはいえ、それでも簡単にはいかない.
金棒を握った《鬼》は、次に金棒を後ろ手に構えて、思い切り地面を踏み切った。
速度はさほどではないのは確かだが、真正面から来られると逃げ続ける、というわけにもいかない.
それなりの広さがあるとはいえ、このボス部屋の中で逃げ回れるスペースには限りがある.
「……私が行くわ!」
雹菜がそう言って《鬼》に向かって走る。
それから、鬼に近づくと、途中で突然方向を変えて、鬼の目の前から横合いへと飛ぶ。
そして、狙いを《鬼》の足下へと定め、そこに向かって剣を振った。
すると、切り付けた部分が凍りつき、《鬼》は走ってきた勢いのまま、地面に転んだ。
雹菜はさらに攻撃を加えるべく、転んだ《鬼》の首筋に向かって剣を振り上げ、
「これで……っ!」
と叫びながら振り下ろす。
そしてそれは確かに鬼の首筋に命中したが、
「……っ、硬っ……あぁっ!」
その首を落とすには若干非力だったらしい。
その上、《鬼》は直後すぐに起き上がり、金棒を拾ってメチャクチャにぶんぶんと振るった。
全く狙いはつけられてはいなかったが……しかし、たまたま雹菜のいた方向へと振られ、雹菜は剣でそれを受けて吹き飛ばされる。
「雹菜!」
俺が声をかけると、彼女は、
「大丈夫! それよりも《鬼》を!」
と返してきたので、俺は安心して、そのまま《鬼》の方へと走った。
まだ冷静さを取り戻せていない《鬼》には隙が多く、俺の接近に気付けていなかった。
首と足を振って、凍りついた部分をどうにかもとに戻そうと努力する《鬼》、その足に向かって、俺は剣を横薙ぎにする。
十分なステータスと、身体強化、それに美佳の補助術も乗っかっているその一撃は、確かに鬼の足を切り裂くことに成功する。
完全に切り落とす、とまではいかなかったが、それでも両足をやられた鬼は立っていることができずに、膝立ちになった。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
今なら、その首に剣が届くのだ。
「……今度こそ!」
そして、俺はその首筋を狙って、引いた剣を振るった。
「グァァァァ!!!」
と、ものすごい悲鳴が響くが……。
「まだっ……」
完全に首を切り落とせてはいなかったようで、金棒を持っていない方の手で《鬼》は頭を支えながら、金棒を振る。
俺はそれを剣で受けるが……これではトドメが差しきれない……。
と、そう思ったところで、
「創、悪いな、いいところはもらったぜ!」
と《鬼》の背後から声が聞こえてきて、見てみるとそこには飛び上がった慎の姿があった.
そしてそのまま慎は《鬼》の首筋を狙って、
「行くぜ……《穿牙》!!」
と剣を突き出した。
慎が生み出した、彼だけのアーツである。
俺のはコピーしてアレンジした、言ってみれば紛い物のようなもの。
動きの滑らかさ、魔力の流れの美しさが違った。
つまり、出が非常にはやく、安定しているのだ。
そして、慎の突きは確かに《鬼》の首筋を貫き、なんとかくっついていた部分を完全に切り離してしまった。
ーートンッ。
と、《鬼》の首が地面に転がり……。
「……体はまだ動いてるな……」
着地して俺の方に来た慎が構えを解かずに呟く。
「放っておけばいずれ死ぬわよ」
いつの間にか近くに来ていた雹菜がそう言い、続けて美佳が、
「倒しちゃった方がいいんじゃない?」
というが、これには雹菜が、
「心臓潰すしかないけど、魔物の心臓って結構いろんなものの素材になるから、残せるなら残した方がいいのよ。ま、流石に首を飛ばされて生き残っていられるタイプの魔物じゃなさそうだし、しばらく観察していましょう……と、言ってる間に、ほらね」
ズズン、と《鬼》の体の方も、地面に崩れ落ちる。
しばらくの間、ピクリピクリ、と細かに体が震えていたが、徐々に弱まっていき、そして完全に動かなくなったのだった。
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