第129話 最終確認
その後、俺たちは里に戻って休ませてもらった。
宿に戻っても良かったのだが、その前にあの迷宮に他の妖人たちが入っても問題ないかの確認が必要だった。
今も変わらず、霊力が乱され続けると言うのであれば、まだ俺たちが受けた依頼は終わっていないからだ。
梓さんは、十階層のボスを倒し、そこにあったものを回収した時点で終了とみなして構わないと言ってはいたのだが、それで結局、原因がわからずじまい、何も解決しなかった、ではいくらなんでも後味が悪すぎる。
これについてはギルドメンバー、それに《精霊の仮宿》の二人も同感ということで一致した。
なので、里の人間が複数人で迷宮の外、および中を確認して問題がなかった場合に、初めて俺たちは安心
できるということになる。
数時間、里で体力魔力を回復しつつ待っていると、ついに迷宮を確認しに行った里の妖人たちが戻ってくる。
彼らは姿が見えるとすぐに梓さんの元までやってくる。
梓さんは、そんな彼らに、
「……して、どうじゃった?」
と尋ねた。
すると彼らは、
「何も問題ございませんでした。あれでしたら、今後定期的に里のものが入り、内部の魔物どもを駆除することが出来ます。いい修行場として、活用できますでしょう」
と笑顔で答えた。
「それはよかった。ではそのように……あぁ、政府の方にはわしの方から話を通しておくでの。ではお主らは、今夜の宴の準備にでも回るが良い」
「はっ」
そして彼らは何処かへと去っていった。
その話を聞いていた俺たちは、やっと肩の荷が降りてホッとする。
「良かった……これで依頼達成、か」
俺がそう呟くと、梓さんは頷いて、
「うむ。ご苦労じゃったな。報酬は事前に約束しておいた通りの金額を振り込んでおくのでな。それに今回のことは、わしにとっても面白かった。少し色もつけておこう……」
「助かるよ……なぁ、雹奈」
「ええ……領収書は受け取り次第、出しておくわね」
「うむ。旅館の経費にしておこう」
「そんなこと出来るの?」
「旅館は妖人の事業ゆえな。説明すれば認められるぞ。まぁ、通常の税務署職員に言ったところで無駄じゃが、そこはほれ、わしら担当がおるからの」
「……妖人のような存在が、普通に現代社会に組み込まれている様をそうやって聞くと、なんだか不思議でしょうがないわね……」
「納税は国民の義務じゃぞ」
「まぁ、そうだけどね……」
「おっと、そうじゃ。聞き逃していたが、お主ら、今夜の宴会には参加するじゃろ?」
「えっ? そういえばさっき宴がどうこう言ってたけど……」
「む? 説明しておらなんだか? 今回の迷宮がわしら妖人に解放の記念に宴を開くことになっておっての。まぁ結果待ちじゃったが、先ほどはっきりしたのでな。六時からなんじゃが……」
「いや初めて聞いたわよ。みんなもそうよね?」
振り返って全員に尋ねる雹奈。
全員が頷く。
「うーむ……これはすっかり失念しておったわしの落ち度じゃな……すまん。じゃが、参加せんと、おそらく旅館での夕食が出んぞ」
「どういうことだよそれ」
俺が尋ねると、梓さんは言った。
「妖人全員が参加するのでな……旅館は空っぽになる。今は、今回お主らを泊めるために、旅館は一般人に対しては臨時休業状態じゃったからな。で、みんなお主らが宴に参加するものと思っておるから……」
「うぉい! 夕飯抜きはきついぞ! もう腹ペコなんだよ……」
何せ、死ぬほど体を動かした。
魔力もありったけ使ったし、ついでに《卵》は容赦なく結構な量を吸い取ってくれた。
今は俺が無理くり魔力を吸わないように制御しているが、その制御にもカロリーを使っているので疲れている。
人が近づいてきても問題ないように道中うまく調整してみたら出来たのだが、やはり疲れる。
出来る限り、これはやりたくない。
今はしょうがないけどな。
「わかっておるて。じゃから、宴じゃ。ご馳走がたくさん出るぞ。酒も出るが……まぁ流石に未成年はダメじゃな。十八で成人と言っても、酒タバコが解禁されるわけでもなし」
「……梓さんは?」
「わしはとっくの昔に二十歳など超えとる」
「その見た目で酒は絵面に問題を感じるが……」
「大事なのは中身じゃ。ともかく、みんな宴に参加する、それで良いな?」
一応確認の体を取っていたが、冒険者というのは大抵が大食らいだ。
それだけのエネルギーをスキルや術は奪っていくということだろう。
だから夕食のない寝床に帰る気にはならず、全員が深く同意を示すように頷いたのだった。
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