第104話 事情
「元々日本に住んでたって……どういうこと? いえ、意味は分かるけど……えっ、いつからいたの? どこにいるの?」
雹菜が少しばかり混乱したように尋ねる。
これには桔梗が迷ったような顔をしたので、代わりを買って出たのか美柑さんが答えた。
「いつからいたか、については本人たちもよく分かってないようですね。少なくとも江戸時代くらいからの記録はあるみたいですが、それよりも前になってくると……」
「江戸時代……本当に迷宮とは関係がないのね……」
「少なくとも、三十年前に出現した迷宮と直接の関係はない、ということになるでしょうね。それと住んでいる場所なのですけど、基本的に彼女たちはそれを明かしていません。その理由は別にお話ししなくても、雹菜さんなら、お分かりですよね?」
「……あぁ、そうよね。不躾なことを聞いてしまったわ。《亜人》がいる、そして、住んでいる場所がはっきりしてしまったら……どれだけの人間が押しかけるか分かったものではないわ。でも、よく今まで隠れられたものね。現代じゃ、どれだけ頑張ってもある程度の人間が集まる集落とかがあれば、衛星写真とかに写ってしまうんじゃない?」
言われてみるとその通りだ。
電子機器の類は、迷宮内とか魔境の魔力が強いところではうまく動かないことが大半だが、地球上で使えなくなってしまったとかそんなことは全くないわけで、地上にある以上、普通に衛星写真には写るはずだ。
そしてそうである以上、そこをこの桔梗のようなケモ耳人間がいっぱいいたら、絶対にどこかで話題になる。
米国企業とかが見つけていたら、秘密裏に連れ去ったりとかそういうことすらあり得るかもしれない。
だが、こうしてこの少女がここにいるということは、そうはなっていないというわけで……そこに雹菜は疑問を感じたのだろう。
これには桔梗が答える。
雹菜に多少は心を許しつつあるようだ。
「……村には、結界があるの。だから、カメラとかには映らない……」
「結界……魔術ってことか?」
俺がふと疑問点を口にする。
言ってから、まずい、俺は雹菜や慎と違って全然仲良くなってなかったんだった、警戒させてしまうか……?
と思ったが、意外にもあまりそんな様子はなく、普通に真っ直ぐに俺の目を見て、
「魔術とは……違う。私たち、最近まで魔力とかなかったから。普通の人と、同じ」
魔力は迷宮由来というか、迷宮が出現してから人類が使えるようになった力だ。
精霊力とかも同様で……。
しかし、結界、なんてものは既存の科学技術では作れないものであるはずだ。
「じゃあ、どうやって?」
「私たちは、昔から霊力、と呼んでる力があるから。それで張ってるの」
「霊力……!」
不可視の力には魔力以外に精霊力とか闘気とか聖気とかがあるが、霊力はまだ聞いたことがなかった。
しかも、それは迷宮出現以前から存在している力だという。
興味がひかれないはずがなかった。
「それってどんな力なの?」
雹菜も同様のようで、尋ねる。
「うまく説明できないけど……多分、魔力と似てる。《ステータスプレート》にも表示されるし」
「えっ?」
驚いて紬を見つめる雹菜。
紬はそれに答えた。
「桔梗の《ステータスプレート》は、私も見せてもらったんだけど、そこには確かに《霊力》の項目があったわ。普通に数字でね。結構な高さで……普通に迷宮に潜ってあげたというより、小さな頃から修行してあげたんだと言われた方が納得する数字だった。何せ、他のステータスはさほど高くなかったしね」
「《ステータスプレート》、一体どこまで個人情報を把握できるのかしら……」
改めて怖くなったのか、雹菜がつぶやく。
「今更な話よ。不倫がバレたりするより全然気楽な話でしょ。意外に桔梗たちも便利に使ってるらしいし。後は……《亜人》は霊力を使える者はみんな、冒険者としての適性があるみたいでね。そういう意味でも、魔力と近いところのある力なんでしょうね」
「なるほど……ま、そこまでは分かったわ。でも、どうして今日はここに来たの? 別に《亜人》がいる、なんてあえて私たちに言わなくても良かったような」
「それなんだけど、ちょっと今、桔梗の故郷でまずいことが起こってるらしくてね。その解決のために、力を貸してほしいの」
「故郷?」
「そう岩手県なんだけど……」
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