第105話 里での問題
「岩手かぁ……なんだか岩手に、桔梗みたいな人たちが昔からいたって言われると……」
ふと俺が口に出した言葉に、美柑さんが反応して、
「遠野とかをイメージしてしまう、ですか?」
「そうそう。妖怪の里だなぁって。そんなに詳しくはないんですけど」
「実際、あの辺りの話については桔梗たち《亜人》が関わるところも少なくないみたいですよ」
「えっ、そうなんですか!?」
俺のそんな驚きには、桔梗が答えた。
「結界……迷いの力とかは、地上から私たちの里に近づこうとしても発動するようになってるから。入り口の家にまでは辿り着けるけど……」
「入り口の家って……あぁ、もしかして、マヨイガ?」
そう言ったのは、雹菜だった。
マヨイガ、マヨヒガ、とは訪れた人間を迷わせ、けれど中には色々な不思議な物品があると言われる伝承上の家のことだったと思う。
いわゆる妖怪の家みたいな扱いのことも多いが、勿論、本当に存在するなんて誰も思っていない。
けれど……。
「うん。あそこが、里への入り口。ちゃんと進み方が分かってないと、迷うだけ。たまに参加賞がもらえる」
「参加賞って……それが伝承で伝わるような、不思議な品ってわけ?」
雹菜の言葉に、桔梗が頷いた。
「実際、私たちもいくつかそういった品を見せてもらったのですけど、仕組みとしてはほぼ魔道具でしたね。使用されるエネルギーが霊力由来という違いはありますが……魔力で同じような機構を再現しても稼働してるのは確認していますから。やはり近しい力なのでしょう」
美柑さんが答える。
「……でも、それだけ霊力っていう力に詳しくて、うまく活用できてて、冒険者としての適性を持ってる人もたくさんいるのに……何か問題が起きてて、里の人だけで解決することは出来ないのか?」
慎が首を傾げた。
確かにそれはそうだ。
それだけの能力を持つ人々なら、多少の問題くらい自分達でなんとかできそうなものだ。
俺たちに協力を依頼するということは、迷宮とか魔物関係の問題であろうと言うことは簡単に想像ができるが、それなら余計に。
この疑問には、紬が答えた。
「確かに戦闘能力とか、そういう部分については確かに問題ないみたいなんだけどね……まぁ、はっきり言うけど、桔梗たちの里に迷宮が出来て困ってるんだけど……」
「入って倒せない?」
俺の質問に、紬は言う。
「入ることは出来る。でも、霊力がうまく使えないみたいなの。いえ、ちょっと違うわね。使えはするみたいなんだけど、どうも《亜人》の人たちがその迷宮に入ると、同士討ちみたいな感じになっちゃうらしくて。でも、迷宮って中の魔物間引いてないと、外に出てきちゃうでしょ? あんまり長い間放っておくと、群れになって溢れてきて、最後には魔境になる」
「恐ろしい話よね。今はどうしてるの?」
雹菜が尋ねると、紬が答えた。
「迷宮の外なら問題なく戦えるみたいだから、そこで定期的に魔物を駆除してるって」
「なるほど。でもずっと続けてるのも怖いわね……」
「そこで貴方たちに協力して欲しいってわけ」
「でも、それなら紬たちだけでもいけそうじゃないの?」
「基本的にはその方針で考えてたのだけど……《亜人》の人たちがおかしくなる状況が、ちょっと危険に思えてね。私たちの戦い方に近いところがあるっていうか。私たちも不味いかもしれない気がして。特に美柑とかみたいなのはね。私も私でなんとも言えないところあるし」
「なんだか抽象的な話だけど」
「こればっかりは、見てもらった方が早い気がするわ。だから、受けるか受けないか、とりあえず返事を聞かせてほしい」
そこで、俺たちは顔を見合わせる。
それだけで大体の方針は一致していることを理解した。
雹菜が代表して答える。
「……みんな受けてもいいって。もう一人、メンバーがいるけど、彼女もいいって言うでしょうし」
「助かるわ! で、場所なんだけど、もちろん岩手になるから……」
「……だいぶ遠出よね。いえ、でもそうか。今は……」
「ええ、《転職の祠》があるわ」
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