第486話 進んでいく

「……それにしても、まさかここまでサクサク進めるとは……現実とは信じられません」


 相良さんがそう呟いた。

 迷宮に入り、最初に蜥蜴人リザードマンを倒してから、何度も魔物の集団と遭遇してきた。

 しかし、そのいずれも賀東さん、相良さんというA級を筆頭とするこのパーティーは簡単に倒しきり、未だに全員無傷である。

 高位冒険者の迷宮攻略を目の前で見るのなんて当然初めてだが、これほどまでに凄まじいのか、と俺は思ったくらいだ。

 けれど、相良さんからしてみても、今の攻略速度はちょっとおかしいらしい。

 賀東さんも頷いて言う。


「ここにいる魔物はどれも、日本で攻略されてる迷宮最前線の魔物と同じくらいか、それ以上に強いものばかりだからな……それなのに、未だに誰も苦戦する様子が無いってのは……とんでもねぇよな」


「その通りですよ。参考までにですが、私が《影供》のメンバーと一緒に潜ったときは、大体この辺りまで来れば疲労困憊でしたからね。怪我も皆負っていましたし、帰り道を考えると、ここで戻らざるを得ないと判断する有様で……」


 洞窟を出てから山道をしばらく進んできた俺たちだったが、徐々に高いところに移動していた。

 途中、橋を渡ることも何度か会って、洞窟があった岩山よりもかなり離れた岩山にまで来ている。

 どうやら、この階層は、上へ上へと進んでいくタイプのようだった。

 元々《転職の塔》の迷宮であることを考えれば、おかしくはないな。

 塔を登っているのだ、ということで。

 しかし、仮に周囲に見える岩山の中で最も高いところに登ったとて、次の階層への入り口はどこにあるのだろうか?

 迷宮とは容易に予想がつくような存在では無いから、色々な可能性が考えられるが……。

 そんなことを考えていると、賀東さんと相良さんの会話が進む。


「今回はさらに奥まで行けそうだな。というか、この階層は踏破出来そうだ。出来れば、次の階層に登った時点で転移点とかあるとありがたいが……」


 転移点、とは、特定の迷宮──その殆どが高位迷宮や、迷宮の深層──において、地上から特定の層まで一気に転移できる目印のようなものだ。

 転移する方法は様々らしいが、迷宮の一階層などから、その特定の層まで転移できるようなシステムがある迷宮というのが確認されている。

 ほとんどは高位冒険者しか使用しないというか、出来ないほどの階層へのものなので、俺のようなE級にはまず関係が無かったのだが、今回は体験できそうだ。

 まぁ、《転職の塔》に入るときの奴も転移ではあるし、深い階層にあるもの、でなければ経験済みと言えるのだが、やっぱり一般的なものも体験しておきたいからな……。

 

「おそらく、あるでしょう。大体は五階層ごととか十階層ごととか、キリのいい数字で存在してることが多いですが、こういう広大な階層の場合、そこを踏破した先にあることも珍しくないですから」


「だよな。俺もそれを期待してる……まぁ、五階層ごとでも、この調子ならいけそうな気はするけどな。全く、創の補助術様々だぜ。なぁ?」


 急に話しかけられて少しビビる。

 なんだかんだ、俺はまだE級に過ぎないからなぁ。

 そう思っていることを賀東さんは察したのか、


「おいおい、創。俺とお前はもう《仲間》なんだぜ。別に俺にも敬語なんていらねぇんだが」


「そう言われても……」


 中々難しいところはある。

 以前にも言われているが、しばらく間をあけると直ってしまうんだよな。

 小市民過ぎるかもしれない。


「ま、いいか……しかし魔力とか精神力とかは大丈夫か?」


「それについては十分に余裕があります。燃費良いんですよ」


「持続力も普通の補助術士の比じゃねぇか。ありがたいな……よし、じゃあ先に進もう。もう、この迷宮の絶望は払うべきだからな」

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