第487話 魔法陣
「……ここ意外に続いている道は無さそうだな」
山道を進みきった先にあった岩山、その山頂にぽっかりと空いた洞窟を見つめながら賀東さんがそう呟いた。
こんなだだっ広い空間の先に、一体どこに次の階層への道があるのかと思っていたが、こういうことか、と思う。
この洞窟の中に入れば……何かがあるのだろう。
しかし、怖いな。
戻ってこられない可能性まである。
だが、誰かがまず足を踏み入れなければならない。
これは、どんな迷宮でも最前線を攻略するときに必ず生じる葛藤だ。
そしてここにいるメンバーのするべき選択はそもそも決まっていた。
「……行きましょう。ここまで来て戻るわけにもいかない。戻る意味も無い」
相良さんがそう呟く。
まさにその通りだった。
全員が無傷だし、余裕がある。
俺も魔力は自然回復量で既に満タンだ。
これ以上に完璧な状態はなく、今向かうのが正しい。
まぁ、もっと強くなってからここに、という選択肢はあり得ないでは無いが、それを考え出すと一体どれくらい強くなってからにすればいいのか、という話になってしまうしな。
余裕を持ってこの岩山の階層を攻略できたのだから、次もまだなんとかなるレベルだ、と考えるべきだろう。
迷宮とはそういうものだからだ。
少なくとも、次の階層にいったら急にレベルがとてつもなく上がった、ということは滅多に無い。
滅多に無い、だけであり得ないとまで言えないのが難しいところだが。
「あぁ、みんなもいいな」
賀東さんが俺たちに振り返って尋ねる。
もちろん、全員が頷いた。
そしてそのまま、俺たちは中に進んでいく。
すると……。
「これは……魔法陣、ですね?」
世良さんがそう言った。
確かに、それはそこにあった。
大体十メートほど歩いた先に、開けた場所があって、その中心に直系五メートルほどの少し大きめの魔法陣が光り輝いていた。
明らかに稼働しているようだが……。
「何のための……って、考えるまでも無いでしょうね。転移陣でしょう。ただ先に確認してみた方が良いけど」
雹菜がそう言った。
場合によってはただの罠、ということもありえる。
賀東さんはこれに頷いて、
「ま、そうだな……お、ちょうどいいのがいるぜ」
そう言って、洞窟の中を走っていたネズミのようなものを捕まえる。
ようなもの、というのは普通のネズミと違ってちょっと大きい上、迷宮にはそういう自然の動物はまずいないからだ。
おそらくは魔物だろう。
迷宮の大型の魔物がこういった小さい魔物を捕食していることがあるため、そのために迷宮が生み出しているのだと言われる。
迷宮の生物相は謎だが、独特の合理性が覗くのが面白いところだ。
それで、なぜそんなものを賀東さんが捕まえたのかは言うまでも無いことだ。
賀東さんはそれを軽く叩いて気絶させた上で、魔法陣の中心に投げ入れる。
動物愛護団体がブチ切れそうな行動だが、迷宮の魔物を守ろう、というのは少数派だし、大多数の国民は白い目で見ているので問題ない。
ゴブリン関係についても、ゴブリン達が自らの主張を直接伝えられるようになったため、そういう人権団体は虫の息なくらいだしな。
本当に命を賭けて戦っている人間と、最後列で叫ぶことしかしない人間の価値は歴然としているということだな。
「……お、ネズミが消えたな……やっぱり、転移陣で問題ないようだ」
しばらく魔法陣を観察していると、ふっと光が強くなり、そして中心に寝転がっていたネズミが消滅したのだ。
出来ることなら向こう側から戻れることも確認したいが、両方で行き来が出来る場合の転移陣は、一旦向こうの転移陣から降りて、再度乗らないといけないらしく、気絶したネズミでは難しいと雹菜が言った。
なら後はぶっつけ本番しか無いか……。
「行くぞ」
賀東さんがそう言って、俺たちはぞろぞろと転移陣の上に進む。
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