第488話 転移先
「……ここは……?」
転移魔法陣に乗るとすぐに光に包まれる。
そしてどこかに運ばれる感覚と共に辿り着いたその場所は……。
「石造りの……神殿、のような場所のようだな。まぁ、迷宮の魔法陣がそういう場所にあることは珍しくはねぇ」
賀東さんが周囲を経過しつつ、言う。
「とりあえず魔物の姿は無いみたいね……ええと、出口は……あっちかしら」
扉を見つけた雹菜がそう呟く。
「そのようですね。ここにいつまでもいても仕方ありませんし、さっさと出ますか?」
相良さんがそう言って皆の顔をみる。
特に反対意見がなさそうなのを確認し、歩き出した。
扉を開くと、少し長く、広い通路が続いていて、その直線上に再度大きな扉があった。
「いきなりボス戦、ということはないわよね……?」
雹菜がそう呟いたので、俺は言う。
「流石に無いんじゃないか? というか、そういうときって大体、転移と同時にボス部屋だったりするんだろ?」
迷宮の深層ではそういうことがあるという知識はある。
「確かにそれもそうなんだけどね。でも初めて人の足が踏み入れる迷宮だと何が起こるか全く想像がつかないから……」
「このメンバーなら何があってもきっと大丈夫……とは言えないか。でも逃げ帰るくらいは出来るだろうさ」
「そう願いたいわね……」
そして、俺たちは扉の前に辿り着く。
「特にやばそうな雰囲気は無いな。ボス部屋では無いだろうが……とりあえず皆、何があっても対応できるように準備しておけ」
その言葉に皆、緊張の度合いが高まる。
武具をとりあえず抜いておき、構えた。
それを確認した賀東さんが扉に手をかける。
徐々に開いていく扉。
向こう側からは光が漏れる。
太陽光に似た、明るい光だ。
そして、すべて開ききると……。
「ここは、外か? いや……それよりも……」
「お前達!? 何者だ!?」
そんな声と共に、俺たちに向かって槍を向ける者がいた。
見れば、そこにいるのは完全武装の蜥蜴人だった。
これまで迷宮に出現してきたものとは異なる、揃いの拵えの、良く手入れされた武具だ。
明らかに文明を感じる……。
「おいおい、これって一体……いや、それよりもまずは……お前らこそ誰だ? そもそもここは……?」
賀東さんが誰何する。
すると、向こうは答えた。
「ここはゲッコー王国、王都ナビヘカの郊外だ!」
「ゲッコー王国? そんな馬鹿な……ここは《転職の塔》の中だぞ……一体……?」
賀東さんが独り言呟いている間、俺と雹菜も話す。
「おい、雹菜、ここってまさか……」
「……異世界? いえ、でも明らかに転移魔法陣で来たし……振り返るに、それがなくなってるってわけでもない。別の世界に来た感じでは無いんじゃないと思うわ……ただ、あの転移魔法陣が、異世界へ転移できるものだというのなら別だけど……」
「情報がなくて判断がつかないな。見たとおりに考えれば異世界でいいような気がするが……」
「相手の方は普通にコミュニケーションを取れるようだし、まずは情報を得る事ね。賀東さんがうまく話してくれてるみたいだけど……」
最初、首を傾げきりの賀東さんだったが、巨大ギルドをまとめきるカリスマ性はコミュ力の高さも示している。
いつの間にやらしっかりと会話をしていたようで、気づけば向こうも向けていた槍を下げていた。
それを確認した俺たちもまた、武具を鞘に収める。
そして、賀東さんが俺たちの方に戻ってきて、言った。
「……どうやら、俺たちを向こうさんがお呼びのようだ。着いてきてほしいと言っている……」
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