第489話 疑問

「……おいおい、街があるぜ……蜥蜴人の……」


 馬車に揺られながら、賀東さんがそう呟いてしまったのも無理は無いだろう。

 俺たちは今、ゲッコー王国の王都ナビヘカ、というところにいるらしい。

 先ほどの転移魔法陣のあった神殿から馬車で連れてこられたのだ。

 馬車は馬では無く、どことなくは虫類っぽい、しかし馬のような生き物に引かれている。

 リザードホースという魔物だという説明だったが、珍しがる俺たちにむしろ、兵士達が驚いていた。

 ここではそれほどにポピュラーな生き物らしい。

 

 そう、ここだ。

 この世界?

 迷宮のこの階層?

 なんと言って良いのか分からないこの場所には、俺たちが今まで見たことも無いものばかりがある。


「……確かに沢山の蜥蜴人が歩いているわ……武具を纏ったものだけじゃなくて、一般人にしか見えないようなものも……子供もいるわね……」


 雹菜がそう呟く。

 街の中はほぼ全てが蜥蜴人で占められている。

 いや、一部違う生き物……エルフらしき者もいるのだが、それ以外はやはり蜥蜴人だ。

 確かにここは蜥蜴人の街で、蜥蜴人の国なのだろうと感じさせるが……。


「でも、やっぱりおかしくないか?」


 ひそひそと俺は呟く。

 雹菜も頷いて、


「そうよね……でも、確認。どこがオカシイと思う?」


「色々あるが……一番分かりやすかったのは、神殿からここまでの距離だな。馬車を使うような遠さじゃ無かった」


 妙に近かったというか。

 

「それは私も確かに思ったわ。何でなんなのかは何ともいえないけど……そもそも兵士たちは数日かかる、みたいなこと言ってたけど三時間くらいで着いてしまってるし」


「だよな」


「でもそれがどうしたんだと言われると……なんか変、としか言い様がないけど……」


「このまま話が進めば分かってくるのかね……?」


「さぁ……?」


 ただ、蜥蜴人の兵士達は特に俺たちに危害を加えよう、という感じでは無い。

 それどころか、馬車はそのまま街の中心部にある王城まで進んでいく。

 王城は壮麗で、中は大層広そうに見えた。

 俺たちは、


「……さぁ、馬車はここまでだ。降りてくれ」


 と蜥蜴人の兵士に入れて下車する。

 そして、ついてこいと言われたまま、王城の扉をくぐると……。


「……ん? え?」


 みんながきょろきょろと周りを見た。

 それは当然だろう。 

 扉の先にはおそらく、玄関ホールのようなものがあるだろう、と考えていたのだが、即座に玉座の間らしき景色に変わったからだ。

 先ほどの兵士はいつの間にか、部屋の端に背筋を伸ばして立っている。

 俺たちの正面には玉座があり、そこには巨大な蜥蜴人が一匹、鎮座していた。

 あれこそが、この国の国王なのだろう、と察せられるが、しかしこれはどういうことだ……。

 なぜ、俺たちはここへ……。


 色々と考えていると、王と思しき蜥蜴人が口を開く。


「……お前達が、か」


 何がだ、とよっぽど尋ねたかったが、本当に王だとするとそう言ってしまうのはぶしつけだろう。

 ただ誰かが何か聞かねば状況が掴めないため、代表して賀東さんが口を開く。


「……お言葉の意味が分かりかねます……ええと、どういう意味なのでしょう?」


 少しばかり丁寧な賀東さんの言葉に、蜥蜴人の王は首を少し傾げてから、ゆっくりと答えた。


「お前達は、あの神殿からここにやってきたのだろう? つまり、この国を救いに来た、救世主であるはず……」

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