第490話 魔物

「……救世主、ですか……?」


 首を傾げる賀東さん。

 もちろん、俺たち他のパーティーメンバーも同じ気持ちだった。

 そんな俺たちの表情を理解したのか、蜥蜴人王は説明する。


「うむ。我が国の言い伝えにあるのだ。世界が危機に陥ったとき、ルガー神殿に救世主達が現れるだろう、と。それがゆえに、当然お主達もそのことについて理解していると思っていたが……その様子では違うのか?」


「……そう、ですね。私たちは……その、なんと言いますか……このようなところに来たのは、思いも寄らなかったと言うしか……」


 嘘はやめておいた方がいい、という判断なのだろう。

 賀東さんはそう言った。

 蜥蜴人王も、賀東さんとの会話を聞く限り、悪い人……蜥蜴?ではなさそうに思える。

 両脇に控えている蜥蜴人の兵士達も、俺たちに向ける視線は厳しいものというよりかは、何かを期待するような、そんなものに感じられた。

 蜥蜴人王は賀東さんの言葉を聞いて言う。


「そう、だったか……では、我々の事情をまず説明した方が良いか……?」


「出来ればそうしていただけると。我々も予想はしていなかったとはいえ、ここに来たこと自体には何か意味があると感じています。可能な協力であれば、したいとも」


 これは、ここが《転職の塔》の迷宮から転移した場所であり、そうである以上ここで何かすることによって先に進める、と考えるべきだからだろう。

 本当なら賀東さんも俺たちと相談しながら話したいだろうが、雰囲気がそれを許さない感じはあった。

 まぁ、それに賀東さんはとりあえず話を聞く、出来る協力はあるかも、くらいのことしか言っていない。

 それ以上踏み込むには、それこそ相談が必要だからだ。

 そんな賀東さんに蜥蜴人王は言う。


「では……我々の歴史から、というとあまりにも長すぎるゆえ省く。今問題になっているところから話そう……一体いつの頃からか、世界に魔のものが出現し始めた……」


 そんな風には言ったが、蜥蜴人王は思いのほか、話がうまく、蜥蜴人たちの歴史も随所に入れながら話した。

 それによれば、どうもこの世界は支配的種族が蜥蜴人族で、少数の異種族がいる、くらいの構成らしい。

 これはこの世界の気候が蜥蜴人に向いているからのようだ。

 陸地は多くなく、湿地帯が非常に広くあるらしい。

 これは蜥蜴人的には天国のようだな。

 まぁ、迷宮の中だからそれがどれだけ《本当に》あるのかは分からないのだが……。

 他種族はエルフが少しと小人がいるくらいだそうだ。

 ドワーフとか魔族は知っているか、と聞いたら知らないと言う。

 そしてそんな世界に、ある日、今まで見たことの無い生き物が出現したという。

 それは、巨大な虫のような存在で、今では魔物と呼ばれているという。

 調べた結果、湧き出している地点まで特定できたようで、そこを攻め落とすべく蜥蜴人総出で戦っているという。

 しかし、最初は良かったが、徐々に押され始めたらしい。

 それも、途中から顔を出すようになった、四つ足の虫がそのまま立ち上がり、二本足で歩いているような、まるで人のような虫が、あまりにも強く、かなり多くの蜥蜴人の戦士がやられているという。

 虫人、と名付けられたその存在をどうにかするために、努力しているようだが、今のところは数をぶつけてなんとかするしか無い状況だという。

 それで今まではギリギリ戦ってこられたが、このまま行けばじり貧になっていくことは間違いなく、悲観的な空気が流れ始めていた。

 そこに現れたのが、俺たち、ということらしかった。

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