第491話 偏り

「……そういう事情でしたか。概ね理解しました。あの……少しばかり仲間と相談してもよろしいでしょうか?」


 賀東さんが蜥蜴人王にそう求めると、


「うむ。そなたたちにはどうやら突然のことだったようだしな。そのような時間も必要であろう。街に宿を用意しておる。今日はそこで休み、仲間達と話し合うがいい」


 そう言ってきた。

 そして、ここまで俺たちを案内してくれた兵士が近づいてきて、


「……では宿を案内する。こちらへ」


 と先導し始めた。

 俺たちはそれについていく。

 そして街中をしばらく歩く。


「……街の人たちはしっかりと生きている、わよね……」


 雹菜が俺にそう言った。


「あぁ、間違いなくそう見える。だが、蜥蜴人王たちの言動は……何か、シナリオに沿ってるみたいな……そんな雰囲気があるな」


「やっぱりそう感じた……?」


 そんなことを話していると宿に到着する。


「亭主には話を通してある。では、明日迎えに来るゆえ、ごゆるりと」


 兵士はそう言って、来た道を戻っていった。

 中に入ると、確かにそこは宿で、亭主が、


「あぁ、兵士さんから話は聞いているよ。部屋は……何部屋にする?」


 と言ってきたので、男性陣が二部屋、女性陣が一部屋、ということになった。

 部屋数はあまり多くなくそれが限界だという。

 まぁ、三人ずつと二人一部屋だし、問題は無いだろう。

 女性陣以外の部屋割りは、賀東さんと相良さん、それに俺で一部屋、そして他のB級の男性陣で一部屋となった。

 A級B級で分けようとすると俺が余るから、人数少ない方に俺が押し込まれた感じだな。

 まぁ別に野郎の部屋なんて正直どうでもいい話だしな……。


 部屋に入ると、意外に広くて快適そうだった。

 風呂は普通にあるようで、蜥蜴人たちが好むからどこにでもあるのだという。

 水場に強いというか、湿地帯などに元々住んでいたらしいから、納得ではあった。

 まぁ概ね、ゆっくり出来そうな宿だった。


「さて、どうしたもんかね」


 ベッドに腰掛けながら、賀東さんが呟く。

 じっくりとした会議と言うより、雑談だ。

 内容は重要だが。


「どうしたもこうしたも……やっぱり蜥蜴人王に協力するしかないのではありませんか? 虫人と戦うことを求められるのでしょうが……」


「具体的にどういうことをするかまではまだ聞いてないからなんとも言えないが……聞いたらその場で是非を聞かれてしまいそうだったしな」


「それはあったでしょうね……創はどう思いました?」


 A級同士の相談に俺が入って良いものか悩んでいると、相良さんが水を向けてきた。

 意外に気さくなんだよな、この人……。


「虫人がどんな存在なのか、一度見てみたいなと思いましたね。別にあの蜥蜴人王とかを信じないわけじゃ無いんですけど、現実の戦争とか見てもどっちか片方の意見だけ聞くと歪みませんか?」


「なるほど……確かに」


「虫人と話したい、か。許される感じもしないが……うまいことなんとか会えるような方向に話を持っていくしかないか? まぁでも、蜥蜴人たちの人柄は悪くはなさそうだが……でもそう言う場合でも国として他の国に対する態度が善いものか、というと別の話だもんな」


 二人とも俺の意見に理解を示してくれる。

 そして賀東さんが言った。


「じゃあとりあえずは、虫人か、魔物とやらを一度遠くからでも見てみてから結論を出したい、みたいな話に持ってくか。他の奴らとも相談しないとな……」

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