第492話 許可

 皆で相談した結果、敵であるという存在をまず見てみたい、という方向で話を持って行こうと言うことに決まった。

 その理由は、とりあえず見てみなければ自分たちが対抗できるかどうかすらも分からないから、ということにして。

 その他については賀東さんに一任だな。

 細かい部分はどうしたって事前に予測しきれることじゃない。

 そう思って次の日、登城すると蜥蜴王は言った。


「……心は決まったか」


 それに対して賀東さんは言う。


「それなのですが……私たちはどんな相手に対しても怯えることはありません。しかし……我々の国の言葉に、敵を知り己を知れば百戦殆からず、という言葉があります」


「……ふむ。それで?」


「つまり、敵についても己についてもよく知ることで、何度戦っても勝つことが出来る、という意味ですが、現状において私たちは己についてはよく知っていても、敵についてはほとんど何も知りません」


「私がした説明では足りなかったか?」


「いえ、言葉による説明は十分に。ですが、実際に目で見て、体で感じることと、ただ聞くだけでは大幅に違うものです。ですから、お願いがございます」


「言ってみると良い」


「はい。まず我々に、敵であるという魔物、そして虫人の観察をさせていただきたいのです」


「観察とな……」


「どのような形・大きさ、動きをして、どのような考えを持っているのか、それをまず知りたい。その上で、どう戦うかを考える。そうすれば……」


「何度戦っても勝てる、か……。ふむ……いいだろう。では……」


 そして蜥蜴王は兵士を一人呼びつけ、指示を出す。

 それから俺たちに言った。


「この者に案内するように指示をした。まずはその目で確かめてきて欲しい」


 これでとりあえずの目標は達成だな。

 そう思っていると、賀東さんは少し踏み込んで言う。


「……最後に一つお聞きしたいのですが」


「なんだ?」


「もしも虫の魔物や虫人と、和睦の可能性などがあった場合、どうされるのですか?」


 これはふとした思いつきのように言っているが、危険な質問だった。

 場合によっては異端扱いされかねないほどの。

 けれど、蜥蜴王は特に激高したりはせず、深く頷いて答える。


「それが可能なのであれば、是非も無い……だが、その可能性が見えたことは今まで一度も無いのだ。もしもお主達に可能なのであれば……それでも構わぬ。そのためにも、まずは奴らを観察してきてくれ」


「……承知しました」


 そして俺たちは王城を出る。

 そのまま馬車に乗り、目的の場所まで揺られることになった。 

 御者は案内の兵士がしてくれるので、荷台には俺たちだけになる。


「大分話の分かる王様だったな」


 賀東さんがそう言った。


「そうですね……和解できるならしてもいいと言っていました。その可能性を探ったこともあるような言い振りでしたね」


 世良さんがそう言う。


「でも無理だったっぽいわね。どうしてかしら? やっぱい話が通じないような存在なのかしら……だとすれば私たちがどうしたって、結局戦いは避けられなさそうね」


 雹菜が呟く。


「まぁ、結局ここは迷宮なんだしなぁ……魔物との戦いはあって当然なんじゃ無いか? いやでも、こんなイベントじみた感じなのは当たり前の出来事じゃ無いよな。そう考えると、当然、戦いがあるって考えること自体も疑ってかかるべきなのかな?」


 俺がそう言うと、雹菜は、


「今までの常識からは大幅にズレたことをさせられてる感じね……そもそも、この状況がなんなのか、未だに分からないし。まずは出来ることをするしかないわ」


 そう締めたのだった。

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