第53話 他の者のアーツ

「ちなみに、明かせる範囲でもちろん構わないけど、どんなアーツを持ってる人がいるんだ?」


 当然、気になったので俺はそう尋ねる。

 慎重な聞き方になったのは、下手に大規模ギルドの本当に秘匿したい情報などを知ってしまって、狙われるようなことになるのは避けたかったからだ。

 雹菜がそんなことをするとは思えないが、彼女は俺の友人でもあるが、その前にまず《白王の静森》の一員なのである。

 必要があればある程度のことはするだろう、と思ってのことだった。

 そんな俺に、雹菜は少し考えてから言う。


「細かくは話せないから抽象的な話になっちゃうけど……この創のアーツは例に取りやすいと思うわ」


「どういうことだ?」


「天沢流、ってなってるでしょ? 冒険者って、何かしらの流派の武術とか身につけている人、多いじゃない?」


「あぁ、それはそうだな」


 古今東西、色々な武術の流派が世界中に存在していることは誰でも知っているだろうが、冒険者という存在が生まれてきてからも、実のところそれら武術流派は大きく存在感を減じることはなかった。

 なぜかと言えば、冒険者は確かに素の身体能力が上がったり、スキルを使えるようになったが、武術というのはそれらと打ち消し合うような技術体系ではなかったからだ。

 冒険者が魔力などで上げられるのは、あくまでも基礎的な能力の部分であって、技ではない。

 そして、技についてはスキルがあるが、スキルというのは基本的には一つのスキルにつき、一つの技のみが身につけられる。

 スキルは技術体系ではなく、孤立した一つの技に過ぎないのだ。

 そのような中で、冒険者たちは戦闘を効率的合理的に構築出来る技術体系を求めていたから、当然、今まで人類が何百何千年となく続けてきた闘争の歴史の中で作り上げられた技術体系である武術は注目を浴びることになった。

 冒険者が生まれて当初、それらの武術を身につけていた者の多くが、そうでない者達よりも高い成果を上げていたこともその流れを助長したのだ。

 そのため、今では武術を身につけていない冒険者というのは稀だ。

 俺はどうかと言えば、学校で基礎的なものは身に付けてはいるが、それ以上はな……。

 多くの人間に求められる関係で、本物はなかなか入門するにも難しく、また入門しやすそうなところを見つけてもその場合、インチキだったりすることもある。

 だからギルドに入った後に、もしくは先輩冒険者などに紹介してもらうなどするのが一番だと言われているが、一般的な高校生くらいだとそれも中々難しいところだった。

 雹菜はそんな武術について言及しているわけだが、それがどうしたのだろう。

 雹菜は続ける。


「それら武術は、単体だと《ステータスプレート》に表示されるのは称号の部分になるようなの。例えば、それこそ天沢流柔術、とかがあったら、《天沢流柔術師範代》とかね」


「《冒険者見習い》とかの分かりやすい社会的地位以外にも、そんなのも表示されるんだな」


「ええ、称号欄は結構面白いわよ。こんなもの表示してどうなるのかしらっていう称号も結構あるし……でも、何かしら意味はあるから表示されている、とは思うのよね。今のところわからないから、評価は保留だけど。で、武術の続きね」


「あぁ。通常は称号欄に表示されて……ということは、通常じゃないと……アーツにってことだよな?」


 ただ分からないのは、どういうものが、通常ではない、のかということだ。

 師範代までの腕になってもなお、称号欄にしか書かれないのなら、何をどうやったところでアーツに記載されるとは思えなかった。

 けれど雹菜は言う。


「簡単よ……っていうのは、アーツを身につけるのがってことじゃなくて、理屈の方ね。どうも、スキルと組み合わせると表示されるみたいなの」


「んん? よく分からないんだが」


「例えば、《天沢流の正拳突き》を身につけていた、とするじゃない? そこにスキルの《氷術》を組み合わせて、氷を手に纏わせてから、正拳突きをしたとするわ。そうすると……」


「……どうなるんだ?」


 いや、何となく想像はついたけど、具体的にはどうなるのか思いかばなかった。

 雹菜は言う。


「《天沢流氷拳突き》とか表示されるのよ……ほら、簡単でしょ?」

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