第52話 アーツ
「後は……やっぱり何が一番気になるって《地球最初のオリジン》と《天沢流魔術》よね……何これ」
驚きすぎて呆れたかのように、深いため息をつきながら雹菜が言った。
俺もその気持ちは分かる。
自分で見た時にも、やはりそんな感覚がしたからだ。
「だよな……それ、おかしいよな」
「おかしいに決まってるじゃない! 地球最初の、って何よ! 地球最初のって! それってつまり……地球最初ってことじゃない!」
「おい……同じこと繰り返してるぞ。そして声がでかい」
俺と全く同じ反応をする雹菜。
忘れているのかもしれないが、ここはあくまでカフェだ。
客もいる。
大声はまずい、と思っての忠告だったが、雹菜は首を横に振って、
「大丈夫よ。盗み聞き防止用の魔道具使ってるから。私だってそれくらい気にするわ」
そう言って、懐から魔石のような形をしたものをチラリと見せてきた。
なるほど、それなら安心か。
「どんな効果なんだ?」
「声は聞こえるんだけど、全然違う話に聞こえるのよね。錯覚に近い原理らしいのだけど、その辺りはこれを開発した人に聞かないと分からないわ。魔道具関係は職人仕事だから……」
魔道具には迷宮で、宝箱に入っていたり、魔物からドロップするいわゆる迷宮品と、人間がその技術力で作り出す人工物がある。
なかなか人工物で再現できないのが迷宮品であり、逆に迷宮品ではなかなか出てこないような痒いところまで手が届くような効果を持たせたり出来るのが人工物の特徴だ。
どっちが優れているかははっきりとは言えない感じだな。
単純な性能のみで言えば明らかに迷宮品なのだが、今、雹菜が使っているような品はあまり迷宮品としては出てこないのである。
「やっぱり高いんだろ?」
「うーん、五百万円くらいかな。まぁ、安い方ね」
「ごひゃっ……!」
「これは作れる人があんまりいないのよ。仕組み自体は公開されているのだけど、素材や技術の問題でね。だからその値段になるの。あ、私の金銭感覚が死んでるとか勘違いしないでよ? このレベルの魔道具にしては、高くない、だからね? 普段は国産牛にするかアメリカ産牛にするか、それとも鶏肉でいいかってことにするか、悩むくらいには普通の価値観念を持ってるわ……」
「……自炊するんだな」
「これで一人暮らしだからね」
「そうなのか!」
「ええ、知ってるかどうか分からないけど、私、両親がいなくて……だいぶ前に、魔物にね。だから実家にはお姉ちゃんしかいないんだけど、そのお姉ちゃんも毎日忙しくしてて、家になかなか帰ってこないのよ。その割にまぁ家の中ぐちゃぐちゃにするから……これなら一人暮らしした方が生活楽なんじゃない?と思って切り替えたのよ」
「……あの人、片付けできないのか」
もちろん、雹菜の姉の雪乃のことである。
「やろうと思えば出来るわよ。オフィスは綺麗に整理整頓されてるわ。でも、家はね……いるでしょ、そういう人」
「確かに……」
「ま、私もたまに帰ってその時にまとめて掃除はしてあげるんだけどね。毎日は無理。そういう話よ」
「大変だな……」
色んな意味で。
そう思った俺だった。
雹菜は話を戻し、
「で、盗み聞きの話だったわね。その心配はないって分かったでしょ……それよりも、創の称号とアーツね……」
「そうそう、今更だけどさ、称号は分かるんだよな。オリジンについてはアレだけど、他のは《冒険者見習い》とかだし、他の奴らにもついてる」
「そうね……気になるのは、アーツね?」
「そうだ。クラスメイト……慎と美佳に見せてもらったり、他の奴らにも聞いてみたりしたんだけど、アーツについてはみんな空欄でさ。《なし》らしいんだよな。それなのに俺だけこんな……」
「《天沢流魔術》ねぇ……天沢って、創のことよね……?」
「多分な。注釈があるわけじゃないから、どうとも言えないけど……」
「うーん、説明文とか欲しいわね。フレーバーテキスト的なの」
「ゲーム脳だな」
「《ステータスプレート》自体、ゲームじみてるから、あってもいいと思うのよね……でも、まだ《ステータスプレート》の機能はこれで全部じゃない、って頭の中の説明書が教えてくれるから、そのうちついてもおかしくないわ」
「それは俺も同感だな」
頭に焼き付けられた知識によれば、《ステータスプレート》は今はステータスやら何やらを表示しているだけだが、段階的に機能が解放される、という手順じみたものまで入っていた。
それが何なのかは全く教えてくれないのだが、想像することはできる。
それこそフレーバーテキストだってありうるだろう。
他には何だろうな。
迷宮で電子機器が使用できないあたり、連絡機能とかつかないかなとかは思っている。
ま、今は気にしてもしょうがないか。
「アーツのことなんだけどね、一応、うちでも結構な人数調べたけど、大半はそれを持ってなかったわ」
「大半は? ってことは持ってる人間も……」
「いたわ。一部だけだけど、ね」
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