第51話 器用さ
「これは……分かってはいたけれど、極め付けに変ね……!」
まず一言目に雹菜の口から出た言葉がそれだった。
そう言われるだろう、とは思っていたけれど、実際に聞くとやっぱりそうなのかという妙な感慨が湧いてくる。
「……まぁ、なんか偏ってるな、とか、この名称はおかしいだろ、とかは俺も思ってたから驚きはしないよ。ただ、一応聞いておきたいんだけど、雹菜から見るとどこがおかしいんだ?」
俺の質問に雹菜は少し考えてから答える。
「色々とあるけれど、私、
「……なんだ、自慢か?」
そうとしか聞こえない台詞だったが、これに雹菜は呆れた顔で、
「そんなわけないでしょ。そうじゃなくて、だからこそ見ることが出来る情報も色々あるってことよ。《ステータスプレート》が有効化されたのは昨日深夜だけど、ギルドから叩き起こされてね。そこからずっとギルドで所属冒険者たちの《ステータスプレート》の情報の閲覧と分析よ……」
「あぁ、比較対象がいっぱいあるってことだな。でも、よくみんな見せたな?」
《ステータスプレート》の内容は個人情報の集合体である。
いくら自分が所属するギルドと言っても、絶対に見せたくない、という人間もいそうなものだが。
しかし雹菜は言う。
「セキュリティには気を遣っているけど、嫌がる人も勿論、いたわよ。でも、見せてくれた場合にはギルド内におけるそれなりの優遇も約束したし、内容についても活用するにしても、個人を特定するような扱い方はしないということを約束したから。だからあんまり細かい話は出来ないわ。ただ一般論は話せる。それに、政府の方でもそのつもりで情報収集してるでしょうから、ステータスの数値のどれくらいがどのレベルの冒険者の範囲になるのか、とか、そういうことは広まっていくと思う」
「なるほど、今ギルドはそんなことになってるのか……」
まぁ、冒険者に関わる新しい、なんというかな、システムみたいなものだ。
使い方や全容の把握を出来る限り早く行い、優位に立ちたい、というのはどのギルドも同じことだろうな。
こうなると、俺はギルドに内定してなくてよかったかもしれない。
その場合も、冒険者成りたてってのはどういうステータスなのか、という参考として提出を求められた可能性は高い。
そうなると、下っ端的に断ることは難しいだろう。
ギルドを辞めればその限りではないだろうが、やっと就職できたギルドを俺がそんな簡単に辞められたか?と言われると難しい気がする。
今でも内定は喉から手が出るほど欲しいからなぁ……。
まぁ、それはいいか。
「で、その一般論からして、俺のステータスはどうだ?」
「数値がまずおかしいわね。駆け出し……高校出たてとか、社会人から転職したてとか、そういう場合にはステータスの数値はどの項目も、概ね10前後に集中するの。握力計とかそういう、今までも存在した計器からの比較だと、だいたい一般人の倍程度の能力が、《ステータスプレート》上の値ということになるわ。つまり、一般人、それも成人男性で、ステータスは5くらいが普通ってことね」
「へぇ、わかりやすいな。ということは……30くらいあったら、普通の人間の六倍は力がある……?」
「そう単純でもないみたいよ。数字が上がっていくにつれて、上がり幅は小さくなっていくみたいなの。だから、30だと……そうね、四、五倍くらいじゃないかしら。まぁ、これもどうしてそうなるのかとか、その辺りはまだまだ全然分かってないけど。本当は六倍くらいあっても、発揮できてないだけ、かもしれないし」
「そうか……でも、そうなると俺の数値って……なんだ、常人の百倍以上のがあるって……?」
「紛れもなく化け物ね……何か自覚はないの?」
「って言ってもなぁ。器用とかは……どうやって試せと……」
「色々方法はあるんだけど……あっ、これで折り紙してみてよ」
席にある紙ナプキンをとって、雹菜が渡してくる。
「……なんで?」
「いいから」
言われるままやってみると、驚くべきことに物凄く簡単に頭の中で想像する形に紙ナプキンを形成することが出来た。
「……何、これ。女の子?」
「いや、雹菜のつもりだけど」
「……言われてみると。随分とかっこよく作ってくれたわね……ってそれはいいわ。分かったでしょう?」
「俺、ものすごく手も器用になってるんだな……?」
「器用の値が高い人はその傾向が強いみたいね。全員が全員ってわけでもないけど。わかりやすい方でよかったわ」
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