第50話 同意
美佳の提案は突然のことで、俺は迷う。
卒業旅行ならぬ、卒業探索はこういった冒険者育成系の高校や専門学校などだと、割とポピュラーなものではある。
相性が良かったらそのままパーティーを組んで独立してしまう奴らもいるくらいだ。
俺たちの場合、それぞれ別々のギルドへ就職が決まっているので、そうはならないが。
というか、俺だけまだ内定ゼロだし。
また、反対に命の懸かった場所へ友人同士で行った結果、ハプニングに遭遇して死ぬほど仲が悪くなる、もう二度と会わない、なんてことになる場合もそこそこあるようだ。
普通の卒業旅行とはまるで違うから、さもありなんという感じだ。
だから、よほど信頼関係がなければ行こう、とはならない。
ただ、俺たちの場合は小さな頃からの幼馴染だ。
喧嘩だって数えきれないほどしてきた。
それでもこうして、一緒にいられるような腐れ縁である。
少々の揉め事が起きても、その場では険悪になるかもしれないが、仲直りできなくなるなんてことはないだろう、と三人とも確信している。
だからこその提案だろう。
俺としても、可能な限り乗りたいと思った。
けれど、俺が今、まともに戦おうとするのなら、どうしても《天沢流魔術》を使って戦うことになる。
なしでも素の身体能力が結構上がってるから、ゴブリンなどの低級の魔物相手ならなんとかなるだろうが。
うーん、その辺りでとりあえず言ってみるかな。
無理そうなら保留というか少し考えさせてくれという感じで。
そう思って俺は口を開く。
「行ってみたくはあるけど、俺は知っての通りスキルゼロだ。あんまり深いところまではいけないと思うけど」
これに美佳が、
「別に本格的な挑戦をしよう!って話じゃないわよ? 三人でちょっと迷宮を覗いてこようってだけよ。卒業したら、一緒に潜る機会なんて中々ないでしょうし」
「そうだなぁ。《炎天房》所属の冒険者に休日にパーティーを組んで迷宮に潜ろうぜ、とは中々言えねぇし」
慎が少し茶化すようにそう言った。
一流ギルドに所属する冒険者は高嶺の花というか、触れ難いエリート扱いされるところがあるからこそのセリフだ。
美佳もそれをわかって、
「そういうのはやめてよね? 気が向いたら卒業後でも誘ってよ」
と少し強めに言う。
「分かってるよ、冗談だ。で、創、どうするよ? 俺は全然いいんだが」
「うーん……」
考える。
だが、断る理由はあまり無いような気がした。
とりあえずは《天沢流魔術》を使うことなく潜り、もしものことがあったらその時はバレようがなんだろうが、躊躇なく使う。
その方針で行くのなら、問題はないだろう。
俺はそこまで考えて、二人に頷く。
「……分かったよ。行こう。ただ本当に俺を戦力としては当てにしないでくれよ?」
「分かってるって」
慎がそう言い、続けて美佳も、
「良かった、断られなくて。もし迷宮で魔物を倒せば、創もなんかスキル使えるようになるかもしれないし、いい思い出にもなるわ、きっと」
そう言った。
ただの思い出づくり、というより俺の可能性を広げてくれるつもりでの提案だったらしく、俺は、
「……ありがとう」
少し後ろめたい思いを持ちながらも、そう言って感謝したのだった。
*****
「えっ、それって大丈夫なの……?」
放課後、俺は駅前の喫茶店で雹菜と向かい合っていた。
客は皆、年齢層の高い店のようで、高校生は俺たちだけのようだ。
そのためか、雹菜が注目されることもなかった。
店を指定したのは雹菜だったので、もしかしたらここも知り合いの店なのかもしれない。
彼女くらい有名だと、そういうところがいくつもないと安らげないのだろう。
「多分大丈夫だと思うけど……まずかったかな?」
「うーん……無茶しなければ大丈夫だとは思うけど……創の力も、スキルって言い張って使えば最悪なんとかなるだろうし。でも、いずれ二人には本当のこと話した方がいいと思うわ」
「それは俺もそのつもりだよ。だけど、タイミングが難しくて」
いっそ、さっさと言ってしまったほうがよかったかも、という気すらしてくる。
雹菜も頷いて、
「確かにそうよね……でも、そうね。いい機会があればいいんだけど」
「ま、これについてはしばらく考えておくことにするよ」
「ええ、それがいいわね……で、本題なんだけど」
「あぁ、《ステータスプレート》だよな。見るよな?」
「……念のため聞くけど、いいの?」
「個人情報の塊だからって? 今更の話だろ。あっ、スリーサイズはあんまりまじまじ見ないでくれよ」
「男の子のスリーサイズ見て何が楽しいのよ……じゃあ、遠慮なく見せてもらうわね」
俺が《ステータスプレート》を出現させ、差し出すと雹菜はそれを受け取って、見た。
そして、目を見開く。
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