第49話 美佳の提案

「そうなのかな? 実は、まだあんまり人と比べられてないから、これがどのくらいなのかいまいちわからないんだよね」


 美佳がそう言った。

 これに俺は、


「慎はこのクラスでも結構な実力者な方だし、そんな奴のおよそ倍ほどの魔力があると考えれば、相当なもんなんじゃないのか?」


 と返す。

 実際、慎は腕力でも素早さでも、このクラスで三本の指に入ると言っていい。

 そういうやつが、おおむねの数値で三十前後で、これは十分に高い数値だと考えるべきだ。

 そうだとすれば、美佳の魔力値72は化け物に近いか、このクラスでも一番である可能性が高い。


「だといいんだけどね。で、創は? 別に《ステータスプレート》見せてくれなくてもいいけど、どんな感じだったの?」


 これにはどう答えるべきか、俺は迷った。

 けれど、一般的な部分についてだけ答えるのは大丈夫だろう。

 《ステータスプレート》を見せると色々とまずいだけだ。

 一応、《ステータスプレート》には項目を隠せる機能もあるが、これは実のところ使い勝手の難しいものだった。

 例えば、スキルを例に取ってみると、もしも三つスキルを持っている場合。

 スキル二つを非表示にすれば、スキルひとつだけしか持っていないように見せることは出来る。

 だが、全てのスキルを非表示にすると、そこには《無し》とは表示されないのだ。

 また、腕力や魔力の数値についても非表示にすれば、その項目全体が非表示になるわけで……そうなると、なんでそこを隠すんだ?みたいな話にどうしてもなってしまう。

 俺の場合、器用と精神力を隠すと、そこに何か異常な数値があるのではないかと容易に推測されてしまうわけだ。

 これが任意の数字に変えられる、とかなら良かったんだが、そう便利でもないみたいなのだ。

 また、俺の場合、アーツのところに《天沢流魔術》がある。

 これを非表示にすると《無し》にはならず、完全な空欄表示になる。

 つまり、何かしらのアーツは持っているが、あえて非表示にしているのだ、ということが分かってしまうのだった。

 今のところ、アーツについてはよく分かっていない。

 無理やり焼き付けられた知識部分でも、細かい説明が入ってないからだ。

 そして、慎や美佳のステータスを見る限り、アーツを持っている人間というのは少ないのではないか、と推測される。

 それなのにスキルゼロの俺が持っているというのは……。

 やはり、これを明かすのは怖かった。

 なんでこんな設計になってるんだと、この《ステータスプレート》を作り出した何者かに文句を言いたくなるが、一体どんな方法で誰が作ったのかなんて知りようがない。

 神様が作った、と言われれば一番納得するくらいの存在だ。

 詰りようがない。

 ただ、多少の想像というか、便利さも感じなくはない。

 俺の場合、いろいろなステータスが異常だから問題を感じるだけで、例えばスキルについて色々有用なものは持っているが、人には見せたくない場合、全てのスキルを非表示にして《無し》と表示されてしまう場合、これは実のところ不便だろう。

 何せ、俺の例を考えてみれば分かるが《スキルゼロ》ではどんなギルドにも門前払いされてしまうのである。

 しかし、全てのスキルを隠したいようだが、しかしスキルがないわけではないのだな、と分かれば、とりあえずの試験くらいは受けさせてくれることもあるだろう。

 スキルは人に明かしてしまうと有用性が半減したり、全くのゼロになるものもなくはない。

 だから、この設計はむしろ親切からかもしれない、という気もした。

 でも、だったら《無し》か空欄かを選べるようにしてくれればよかったのでは?

 と思わなくもないが、それこそ誰に言えばいいんだの話だよな……。

 まぁ、こういうものだと思って諦めておくしかないな……。


 そんなことを考えつつ、俺は美佳に返答する。


「そんなに悪い数字じゃなかったかな。耐久力と敏捷は、美佳よりも高いぞ」


「えっ、意外! あれ、でも腕力は……?」


「それは……同じだな……」


 女の子と腕力が同じか。

 考えてみればちょっと情けないような気もする。

 ただ、今の時代、冒険者であれば男も女も関係なく、腕力を強くすることが出来る。

 しかも体型を保ったまま。

 だからこれはこれでいいのだ……。

 そう自分を無理やり納得させる俺に、美佳が何かに深く頷いて、思いついたように言ってくる。


「腕力がそうでもないのはちょっと残念だけど……そういうことなら、今度三人で一緒に、どこかの迷宮に行ってみない? 卒業旅行ならぬ、卒業迷宮的な感じで」


 それは意外な提案だった。

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