第112話 依頼の詳細

「まず基本的なことじゃが、今回の依頼は、わしら《妖人の里》全体からのもの、ということになる」


 梓さんがそこから確認した。

 桔梗から迷宮をどうにかしてほしい、と言うのは聞いていたが、細かい話は現地で、ということになっていた。

 依頼の主体としては、里のみんな、くらいのことは聞いていたが、代表するのはこの梓さん、ということかな、とそれで理解する。

 実際、梓さんは続けて、


「《妖人の里》……まぁ、わかりやすくそう言っているだけで、わしらは《筒里つつり》と呼んでいるんじゃが、お主らは好きな方で呼べばよかろう。そして、こうして話していることで理解したと思うが、わしが《筒里》の代表を務めておる。今回の依頼について聞きたいことがあれば、わしに聞いてくれれば大体答えられる」


「大体?」


 俺が首を傾げると、これには桔梗が答えた。


「《筒里》は《長老会》が運営を担ってる。ばあちゃんは《長老会》で最も古参で、代表的な役割を担ってるけど、全て一人で決めるわけじゃないから」


「なるほど、何かあったときには、そこで会議したりしないと決められなかったりするってわけか」


「うん。でも……《長老会》は、ばあちゃん以外はほとんどばあちゃんの子供みたいなものだから……正直、大抵はばあちゃんの意見が通る。無理に通さないだけ」


「……子供みたいなって、若いのか?」


「違う。ばあちゃんが長生きすぎるだけ。他の長老もそれなりに長生き」


「……なぁ、あの人いくつなんだ?」


 改めて気になってきた。

 六十とか八十とかならまぁ、桔梗の祖母として納得できる年齢なのだが、長老と呼ばれる人間たちの集まりの中で、その人たちを子供扱いできる年齢となると……?

 しかし梓さんが、


「じゃから、女性の年齢を聞くなというに。知りたいなら、そのうちなんとなく分かることもあろうて。それよりじゃ」


「そうね、実際、依頼の内容の方が気になるわ。迷宮を探索すればいいってことだったけど……最終目標はどこに設定すればいいのかしら。主には、調査だと思ってきているのだけど」


 雹菜がそう尋ねる。

 これに梓さんは、


「うむ、おおむねそれで正しい。《筒里》の迷宮は、わしら妖人が入ると、うまく霊力を振るえなくなるのじゃ。どうにも……妙な力で阻害されているような感じでのう。その原因を探ってほしいのじゃ」


「なるほど……妙な力って、具体的には?」


「分かっておったら苦労せん……が、それほど深いところにあるわけではない、とは思う。入り口近くは平気なんじゃ。少し潜ってもまぁ、大したことはない。じゃが、大体、五階層を超えたあたりからきつくなる。おそらくは十階層前後に……何かがあると思うのじゃ」


「そんなにきついのに、誰かがそこまで調べたの?」


「無論、わしが自ら行った。十階層にはお主ら冒険者が言う、ボス部屋と思しき扉があってのう。入ろうか悩んだが……問題が起こってはまずいと思って、そこで引き返した」


「危険ってこと?」


「うむ……何かあってからでは取り返しがつかんからのう。それより、情報を持ち帰る方が重要じゃとな。その甲斐もあって、お主らに助けを求めることが出来ておる。桔梗をいかせてな」


「よく分かった……でも、紬たちだけでもよかったんじゃないの?」


「初めはな、そのつもりじゃった」


「そもそも、どうしてまず紬たちに?」


「テレビに頻繁に映っておってのう。気配が、わしらに近いと感じた……この意味は……」


「大丈夫。知っているから」


「そうか。まぁそういうわけで、桔梗をいかせても、受け入れてもらえそうじゃと思っての。じゃが、実際に会ってみて、やはり近すぎると感じてのう。他の冒険者のギルドにも頼めないかと相談したんじゃ」


「あぁ、なるほど。じゃあ紬たちは何度かここに」


 これには紬が答える。


「まぁ、この旅館を拠点にしてるとか、マヨヒガの道具を提供してもらってるとか、話したあたりでなんとなく想像はついてたと思うけどね。そういうこと」


「迷宮には?」


「潜った……んだけどね。確かに変な抵抗もあったから。まぁ細かい話は、こっちにきてからした方がいいと思って、色々ぼやかしてたわけ」


「まぁ、東京はね……ギルド同士、盗聴とかあったりするからね。一応、あの私たちのギルドビル、かなりの対策はしてるつもりだけど」


「スキルとかアーツ使われると、何がどうなるかわからないじゃない。気をつけて気をつけすぎることはないわ」


「そうね……ま、目標は分かったわ。迷宮に潜り、大体十階層くらいまで行く、と。そして里の人たちの力が乱される原因を見つける、ってことね」


 これに梓さんは頷いて、


「うむ。あまり深すぎるようならその時はまた、考えたい。お主らもずっと里の迷宮に潜らせ続けるわけにはいかんし、里の財源の問題もある故のう」


「……いきなり世知辛い話だけど、まぁそうね。今はまだ、そんなに高くはないけどね、うちの報酬は」


「そのようじゃな。しかしこうして見ると、かなりの実力があるように思えるぞ。少なくとも、サイトに書いてあった登録ランクなんかと比べるよりは」


「……妖人の里の元締めが、ギルドのウェブサイト見てるのはなんか世界観崩れるわ……」


「最近は妖人でもそれくらいはできんと話にならんぞ。うちの旅館のサイトデザインはわしじゃぞ」


「芸達者な……」

  

 ともあれ、予定は決まった。

 明日には里に向かい、そのまま迷宮へと潜る。

 そういうことになったのだった。

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