第111話 長く生きるということ
「……あっ、ばあちゃん!」
俺の部屋で各々適当に寛いで待っていると、ついに桔梗が気付いたのか、この部屋にやってくる。
ちなみに雹菜と美佳以外のメンバー……紬と美柑さんは既に来ていて、同じく寛いでいた。
桔梗が来る前に、先に色々と梓さんに聞いても良かったのだが、せっかくだし全員で聞こう、ということになって、それぞれだらけていたのだ。
ここ一月、ここにいるメンバーは皆、《転職の塔》案件に関わってしまったがゆえに、良くも悪くも非常に忙しかったので、たまにはそんな時間もいいだろうと。
それにしたって全員がもの凄い怠惰っぷりを見せているが。
まともに座ってるやつがほぼ、いない。
意外にも慎だけはちゃんとしているが……全員分のお茶を淹れてせっせと配っている。
なんて気の利く男なんだろう……。
俺も手伝おうとしたが、お前はいいから座ってろ、と言われてコーヒーを置かれた。
口にすると、すでに砂糖が角砂糖ひとつ分入っていて、俺の好みを適切に抑えたマメっぷりに呆れたような、尊敬の念が湧き出るような、その中間のような感情になる。
「桔梗ちゃんは何飲む? やっぱりオレンジジュース?」
「あっ、おぉ。ありがと。慎」
桔梗はそう言って、コップに注がれたオレンジジュースを受け取る。
「って。そうじゃない。ばあちゃん、いつからここに……!?」
と、梓の方に近づき言った。
やはり、彼女が桔梗の祖母というのは間違いでも何でも無いらしかった。
「二人で並ぶと、やっぱり姉妹にしか見えないな。しかも、梓さんの方が妹に見える……恐ろしい話だぜ」
慎があらかたお茶を配り終えたのか、二人の様子を眺めつつ、俺の耳元にそう呟く。
「霊力を沢山持ってると老化がしにくいらしくて、ああいう見た目らしいけど……」
「へぇ。魔力でも同じ事起きるのかな? 俺たち冒険者と、一般人で老化の速度違うとか」
言われてみると面白い論点だなと思う。
有り得なくもない話だ。
「そりゃどうだろうな? でも……考えてみればそんなことが起こってもおかしくはないか。何せ、俺たちの身体能力って言ったら、一般人ながら軽く殴っただけでどうにかしてしまうくらいになってるわけだし、寿命だって延びてる可能性はある」
五年か十年か、百年かは分からないが。
少しくらいは伸びてても違和感はなかった。
「不老不死とかにも目指せるか?」
ふと、慎がそんなことを言う。
「なりたいのか?」
不老不死、それは人類が求める永遠だ。
でも、それがいいことか悪いことかは誰にも分からない。
創作物なんかでも良く出てくるが、限りある人生を賛美するものもあれば、誰もが求めて手が届かない夢として描くものもある。
実際にそれを手にしなければ、本当の意味で肯定も否定も出来ないだろう。
考えてみれば、梓さんは普通の人間よりずっとそれに近いところがあるから、その価値観を聞いてみたいものだが……。
「さぁ、な。でも、こんな稼業だ。出来る限り死ににくい体が欲しいとか、せめて迷宮の謎が明らかになるまでは寿命でも死にたくないって位はある」
慎がそう答える。
その内容には、俺も賛成せざるを得なかった。
「迷宮の謎か……分かる日が来るのかな」
ぽつりと呟いた俺に、慎は、
「少なくとも、俺たちは誰よりもそれに近いところにいると思うぜ。なにせ、お前がいる」
後半の方はひそひそ話だった。
もちろん、俺についての秘密を想像させる台詞だったからだが、これだけ聞いたところで誰も何も分かるまい。
あと、紬と美柑さんには話してもいいかもしれないというのもある。
雹菜も信用している人たちだし、俺としてもそれほど長くない付き合いだが、いい人達だと思うから。
まぁ、まだ完全に信用、というわけにはいかないので、話すとしてもまだ先だろうが。
「だといいがなぁ……おっと、それよりも桔梗と梓さんだ」
彼女たちの方を見ると、
「いやぁ、館内をうろうろしとってな。ほれ、わしも里では長老格じゃから、いそがしくて……」
梓がそんな言い訳をしてるが、
「その人、創と一緒に男湯に入ってたわよ」
と雹菜がバラすと、桔梗は、
「ばあちゃん……何をして……!?」
と驚いていた。
まぁ、そりゃそうだろうな。
「い、いや、わざとじゃないんじゃ……ただ、のんびりしてたら時間が……」
「さっき忙しいって言ってた」
「おっと……まぁ、そんなことよりほれ、桔梗。今回の依頼について皆と話そうぞ」
「……そうやってまた誤魔化す……はぁ……まぁ、いいか。じゃあ、ばあちゃんから色々話す?」
「うむ、良かろう。皆、テーブルの周りに集まるのじゃ」
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