第110話 氷つく空気
「……で、その娘は一体……?」
しばらく風呂に浸かってから男湯を梓さんと共に出ると、そこにはすでに風呂を上がって浴衣姿になっている雹菜と美佳の姿があった。
質問してきたのは雹菜の方だな。
二人とも、温泉に入ったことで肌が上気していて、どことなくいつもとは違った風に見える。
化粧のしてるしてないは……正直分からないな。
いつもと同様に二人とも可愛い、美人と評されるような見た目のままだからだ。
土台に恵まれているな、と思う。
対して俺は平凡極まりない顔立ちだから……。
そういえば見た目で言うなら隣に立っている小学生にしか見えない梓さんも整ってはいる。
が、あくまでも小学生だから……。
「……お主、失礼なこと考えておるじゃろ。見た目はしょうがないと言っておろうが」
「いやまぁ……そうだよな。ごめんごめん」
「まぁ、いいが……おっと、こっちの嬢ちゃん達にはまだ自己紹介しておらなんだな。わしは
「桔梗ちゃんの……えっ、妹さん?」
美佳がそう呟いた。
そう思うのも無理はないというか、普通ならそうとしか考えられない。
しかし、間違いなので俺はそれについて言及する。
「違う違う。この人は、桔梗のお祖母さんなんだってさ」
「お祖母さん……へぇ、お祖母さんね。そうなんだぁ……って、え? 冗談でしょ?」
頷きつつ、途中まで納得しそうだったが流石におかしいと気づいたらしい。そう言ってくる美佳。
しかし俺は言う。
「いや、紛れもなく本当の話だよ……多分」
「多分って、何よそれ」
「まだ本人から聞いただけだからなぁ……桔梗に会えばはっきりするだろ。他のメンツは?」
わざわざいつでも桔梗に対面できるこのタイミングで嘘をつく意味はないので、本当で間違い無いとは思うが。
キョロキョロと周りを見回して、女子が二人しかいないことを確認した俺の質問に答えたのは雹菜だった。
「紬と依城さんなら二人で別の温泉に行ってるわよ。あと、桔梗ちゃんは……そういえば、お祖母ちゃんを探しに行く、って言ってたわね。あの人神出鬼没だからって……そりゃ、男湯にいたんじゃ見つかるものも見つからないか……」
じとっとした目で梓を見る雹菜。
「い、いや! 別に隠れてたとかそう言うわけではないのじゃぞ!? ではなくて……」
「長湯して時間忘れて男湯女湯のチェンジすら気づかずにいただけだろ」
「お、お主、慈悲はないのか……!? バラさんでもよかろうて!」
「随分と仲が良さそうね……?」
何か雹菜が妙な圧力を出して、俺たちの方を見る。
気のせいか、周囲の気温が下がっている気がする。
これは、感情が昂るとその冒険者が得意な属性の術などの効果が、知らず出てしまうという現象だ。
彼女が得意なのは《氷術》だから……。
「さ、寒い! 湯冷めするぅ!」
梓さんがそう叫ぶと、
「あら、それは悪かったわね……というか、なんで二人ともそんなに仲がいいの?」
氷を引っ込めず、雹菜が尋ねてくるので、俺は中で話した色々について説明した。
すると、
「……なるほどね。そういうこと。ならいいわ……そうよね、流石に小学生みたいな子にどうこうなんて、創に限ってないわよね……」
何か、後の方はブツブツ言っていて聞こえなかったので、
「なんだ?」
と尋ねると、雹菜は慌てたように、
「えっ、ううん。なんでもないの。それより梓さん、私たちも色々今回の依頼に関して、現地の人に聞いておきたいことがあるので、後で聞いてもいいですか?」
と梓に尋ねた。
梓は、
「なんじゃ、急に敬語など使わんでも良いぞ」
と言ったので、雹菜は即座に、
「分かったわ」
と答えて、
「受け入れ早っ! 創もお主も似たもの同士か……」
と突っ込まれていた。
それから梓は、
「まぁ、わしも最初からそのつもりじゃし、お主らの部屋に行こうか」
と言う。
美佳が、
「えっと、桔梗ちゃんはいいの?」
と尋ねたが、梓は、
「わしのこと神出鬼没とかいうが、むしろそれはあの子の方じゃからな。探しても見つからん。待ってた方が来るじゃろ」
と言うので、そのまま俺たちは客室に向かうことにした。
誰の部屋がいいか、と言うのはそれぞれ個室なので一応問題になったが、流石に俺が女性の部屋に上がり込むわけにはいかないと思ったので、俺の部屋にと言うことになった。
まぁ、雹菜の家にほぼ住み着いてるようなもんなので今更な話かもしれないが。
*****
後書きです。
予約ミスに今気づきました。
ごめんなさい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます