第71話 ギルド
「ところで、一体どのくらいまで話したの?」
みんながソファに腰掛けると、雹菜がそう尋ねてくる。
口調はいつも通りの落ち着いた彼女のもので、ただの質問であることが分かる。
やはり先ほどの威圧は、ただ試しただけ、だとよく理解でき、これなら慎と美佳も落ち着いて話せそうだと安心する。
「重要なところは、だいたい全部話したよ。《豚鬼将軍》のことも含めてさ」
「そう……じゃあ、改めて説明しなきゃならないことはあんまりなさそうね……何か聞きたいことがあったら、二人から創や私に尋ねていく、くらいの方がいいかしら?」
雹菜が二人にそう尋ねると、慎も美佳も頷いて、
「ええ、そうしてもらえると助かります」
「うん。お願い」
と言った…
「じゃあ……何か聞きたいことは? 一人ずつ聞いた方がいいかもね。まず慎君からどうぞ」
「ええと……俺はそんなにたくさんはないんですけど、雹菜さんは、創をこれからどうするつもりですか?」
慎は意外なところから聞いてきた。
てっきり、俺の力の詳細とか、アーツの意義とか、そんなことを聞くかと思っていたのに。
それは雹菜も意外だったようで、
「一番最初に聞くのが、それなのね……」
と呟く。
これに慎は、
「俺にとって大事なのは、それだけですから。創がどんな力を持っているにしても、そのことについてはどうでもいいというか……いや、スキルがなくて冒険者として厳しい状態だったのが、アーツを手にして将来が開けたことは嬉しいんですけどね」
「……分かるわ。で、創を私がどうするつもりか聞きたいのは、私が信用できないから?」
「はっきり言えば、そうです。でも、極端な不信があるとか、そういうわけじゃなくて……雹菜さんは、大きなギルドに所属する冒険者だ。どれだけ雹菜さん自身が創について大切に扱ってくれるつもりでも、ギルドの意向には逆らえない。組織ってのは、そんなものじゃないですか?」
「慎……失礼だよ」
美佳が控えめにそう言った。
ただ、彼女もまた、雹菜の答えは気になるようで、その瞳は返答を求めていた。
雹菜はそんな彼らの様子にふっと苦笑し、
「……そうね。基本的には、貴方達の言う通りだと思う。ギルド所属の冒険者は、ギルドの意向に従うから。命令されれば、よほどのことでない限り、断ることはできない。今は創のことが全く誰にも……私たち以外には知られていないから、何も言われないけれど、いずれ言われる日が来てしまう。その時に私は毅然とした態度をギルドに対して取れるのか。そう言う話よね?」
「その通りです」
これについては、俺も懸念はしていた。
しかし、仕方がないという部分もあった。
どれだけ隠そうとしたところで、いつかはバレるだろうと言うのは分かっている力だ。
何せ、俺はこれを使ってこれから冒険者としてやっていかなければならない。
迷宮に潜れば誰かに見られる危険はある。
最初の方はスキルだ、とか特別なアーツだ、と言って誤魔化し続けることは出来るだろう。
だが、俺のアーツは……慎のそれなどを見る限り、少し異質に思えた。
そもそも、俺は他の冒険者と異なるところが多すぎる。
その異常性を、誰かに気づかれることは……それほど遠くない未来だろう。
そしてその場合、俺には後ろ盾となるものがない。
どこかのギルドに所属すればいいのだろうが、俺は内定も出ないし。
雹菜にそれを期待したいところだが、彼女もまた、さらに上位の者の命令には逆らい難いだろう。
そうなった時は……流れに身を任せるしかないと。
可能な限り、いい方向に進むようには努力したいとは思ってるが、それでもダメな時はダメだと思うから。
慎や美佳を、そういう場面に巻き込まないことだけを最低限望んでいたのだが、今となってはそれも難しそうで……。
どうしたものか、と言うのもある。
そう言う意味で、俺も雹菜の答えは気になった。
そんな俺たちの視線に雹菜は負けることなく、そして少しばかり予想外のことを口にする。
「その辺りについてはね、実は考えていることがあるの。あとで話そうと思っていたけれど、ちょうどいいから話しておこうと思う。ただ、これは創、それに美佳と慎君にも、それなりに覚悟を求めることなのだけど……あぁ、別に聞いたらヤバい話とかじゃないから安心して」
覚悟、の辺りで俺たちの顔がこわばりつつあるのを理解したのだろう。
ヒラヒラと手を振って、笑顔になる雹菜。
しかしそれでも、続きを言うのはやめなかった。
「考えてることは、簡単でね。私がギルド所属だからギルドの命令に逆らえないわけなんだから……ギルドを辞めてしまえばいいのよ。で、新しいギルドを作る。創にはそこに入って貰えば、就職の問題も解決……出来れば、美佳と慎君にも入ってもらって、新しいギルドの立ち上げとしたい……のだけど、どうかしら?」
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