第557話 慎たちを連れて

「まぁ、街中なら今のところ安全なのは間違いないから、街の外に出るような場合について気をつければ大丈夫だとは思うよ」


 俺がそう言うと、慎も美佳も頷いて、


「あぁ、そうしとくぜ」


「同感……そうそう、明日は雹菜も一緒に《転職の塔》ってことでいい?」


 初音との迷宮探索は彼女の疲労と、上昇したステータスに慣れる期間の問題もあるから、休日を何日か挟みつつ行う。

 その間に、並行して慎たちを《転職の塔》の蜥蜴人エリアに連れて行き、彼らにもサブイベントをいくつか受けてもらう予定だ。

 最前線にギルドメンバーを連れて行って、実力の底上げを図ると言うことだな。

 そもそも、スキルを身につけられる機会が多いので、余計に行っておいた方がいい。

 だから俺は頷いて答えた。


「あぁ、そういうことで頼む。集合は《転職の塔》前だ」


 ******


 次の日、俺たちは蜥蜴人エリアに連れ立って入った。

 《転職の塔》の迷宮の岩山エリアを通っていくパターンではなく、像に触れて転移する方式だな。

 無理に強敵のいるエリアを通ることもない。

 実戦経験を積むにはいいのだが、その割に要求されるステータスが高すぎるので、蜥蜴人エリアの方が楽なのだ。

 とりあえず慎たちと街中を進む。

 サブイベント探しはもちろんだが、店などにも入って、どんな施設があるのかを紹介していく。


「……確かにここ、面白いってか有用だな。武具もいいもんがあるし、魔道具の類も人間には作れてないもんがたくさん売ってたな」


 一通り確認した慎がそう呟く。

 続けて美佳が、


「ただやっぱりちょっと高いわよね。そもそも、日本円じゃなくて、この世界?この国?の通貨みたいだし……サブイベントいっぱい受けて手に入れるしかないのは辛いかも」


 そう言った。


「確かにそれはあるが、それに見合った品ばかりだからな……スキルを身につけられるようなアイテムなんかがその最たるものだ」


「迷宮でもたまに拾えることあるけど、それこそ日本でオークションにかけたらとんでもない値段がつくもんね。それを考えればマシなのかも」


「そうそう、そういうことだ」


「そういや、蜥蜴人が街中に多いのはもちろんだが、冒険者の蜥蜴人も多いよな。みんなここが蜥蜴人の国だからそうしてるのか?」


 慎がそう尋ねる。

 確かに言われてみると、以前より蜥蜴人の冒険者の数が増えていた。

 もちろん、このエリアじゃ元々いた蜥蜴人なのか、冒険者なのかの判別はつかない。

 転移する前の部屋に、結構な数の蜥蜴人がいたのだ。

 十人くらいかな……。

 以前は賀東さんくらいしか見なかったが……。


「そいつはあれだな、蜥蜴人しか身につけられないスキルが見つかってるから、みんなそれを目当てに種族選択してるみたいだぜ」


 後ろからそう声がかかったので振り返ってみると、そこには賀東さんがいた。

 横には雹菜がいる。

 俺たちと一緒にここに入った雹菜だったが、ギルドリーダーたちを探してくると言って少し離れていたのだ。

 どうやら合流できたらしい

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