第556話 帰還と説明

「……よし、こんなもんだろうな」


 その後も二つほど、オークの集落を見つけた。

 最初のものより小規模ではあったものの、十分な数を初音が倒すことが出来たため、ステータスのアップとしては十分な数になった。


「私、もうちょっと頑張れる。時間もまだあるし」


 初音がそんなことを言うが、


「いや、今日はこの辺にしておいた方がいいぜ」


 と慎が言う。

 続けて美佳も、


「別に今日だけってわけじゃないんだから」


 と続けた。

 こうやって止める理由は簡単で、急激なステータスアップをすると、馴染むのに少し手間だからだ。

 自然にステータスを上げる分にはまず問題にならないが、なんらかの理由で急にステータスが上がった場合、その調整に少し時間がかかることが知られている。

 もちろん、俺が初音に施したようなやり方で急激にステータスを上げた人間はほとんどいないだろうが、同じギルドのメンバーに連れられて、深層に赴いて、結果、ステータスを大量に上げた、と言う例はそれなりにある。

 そのような場合、例えば腕力とかが10とか20とかいきなり上がると、日常生活に支障が出るのだ。

 コーヒーを飲もうとマグカップを持ったら握り潰してしまったとかな。

 マグカップを握り潰すくらいならまだいいが、これが人間の腕とかだったら洒落にならない。

 だから、大手ギルドでも新人のギルドメンバーのステータス上げにと深い層に連れて行く場合にも、ある程度の目安をつけてゆっくり育てていくことはザラだ。

 うちでもそうすべきかもしれないが、うちは少数精鋭でやってるからな。

 みんながそれなりの腕になってないと、やっていけなくなるかもしれないという事情がある。

 あと、大手ギルドであっても、深層まで新人を連れて行って守り切れる人間は少数だと言うのもあるな。

 色々あって、そういった促成栽培的なのは難しいわけだ。

 そんな事情を初音に説明すると、


「うーん、そうなんだ。じゃあ仕方ない」


 と、すっぱり諦める。

 この辺の割り切りの良さは初音のいいところだな。

 そして、そのまま俺たちはギルドに戻った。

 得てきた素材などをギルドに収めるのと、オーク肉なんかは自家消費分を分けるとかな。


「大量でありがたい。帰る」


 そして初音はそう言って、袋いっぱいに詰まったオーク肉を手に、家に戻って行った。

 俺と慎と美佳はギルドに残ったが、それはこれからのこと、《転職の塔》のことについて相談するためだ。

 慎たちも今度、あの蜥蜴人たちの王国のあるエリアまで連れて行く予定なので、そのことについてだな。

 

「雹菜さんとサブイベントについて調べたっては聞いているけど、実際どんな感じなんだ? 俺たちが行っても大丈夫そうか?」


 こう尋ねたのは慎だった。

 美佳も興味深そうな視線を俺に向ける。


「なんとも言い難いな。冒険者である以上、絶対安全なんてことはないが……ただ、街中でのサブイベントを受けてる限りはそこまで危険なものはなかった。外に出るとちょっと危なくてな」


 そして、この間の《蟲族》のことを説明する。


「うげ、そんなのがいるのか……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る