第499話 D級昇格試験

「うーん、体がバキバキする……」


 一時間ほどの筆記試験を終えて、移動する。

 《転職の塔》を出た後にD級昇格試験を受けてくるようにと雹菜から言われ、今日はその当日だ。

 昇格試験はどのランクでもその内容は当日になってみないと分からないことが多いが、とりあえず筆記試験だけは普通にある。

 ただ、意味があるのはC級くらいまでだな。

 B級以上になってくると筆記試験の内容はおまけに近くなると雹菜が言っていた。

 B級昇格試験を受けるような人間ならまず間違いなく知っているような内容ばかりになるから、と。

 これは、冒険者として必要な知識や倫理みたいなものに関する知識はC級くらいまでで全てさらってしまうというのと、ギルド管理者などの地位につくために必要な試験はまた別枠になってくるために、B級以上の試験では筆記に大した比重が置かれなくなるからだな。

 そもそも腕っ節を鍛えてこいと、そういう試験になるわけだ。

 まぁ、腕っ節が大事なのはそれこそどの級でも一緒だが。

 昇格試験はどんな級だとしても、とにかく実技試験が大事だとされているのはそういうことだ。


 その実技試験は、筆記試験が終わってから一時間後に設定されていた。


「指定の場所に集まるように……って、思い切り迷宮の前だな」


 まぁ試験場所が迷宮近くの貸し会議室のあるビルだったので、大体予想はついていたが。

 試験内容は毎回異なるが、半分以上は迷宮の中で行われる。

 だからそれくらいのことは推測できても試験結果に影響は無いという判断なのだろう。

 前の時は向かう先の迷宮を推測させないためにバスでの移動があったが、D級昇格試験ではそういうことはないらしい。

 しても無駄なタイプの試験なのかもしれないな。

 迷宮を使う場合、迷宮内部に罠を仕掛けたりとか、そういうことをする者が出かねないという危惧もあって秘匿される場合も多いが、今回試験場所を知らされたのは前日だし、前の日に罠なんて仕掛けても迷宮に吸収されてしまうからな。

 あとは出来ることは試験を受ける者とは関係ない人を先に潜ませておいて協力させるとかだが、見るに迷宮の入り口に人が立っていて、閉鎖されているようだからそれも無理だ。

 試験のやり方も、徐々に変わっていっているのだろう。

 そもそも迷宮が出現してまだ三十年ちょいしか経過していないからな。

 冒険者協会にしても模索し続けているわけだ。


「では、試験内容を説明する!」


 迷宮前に集合した百人ばかりの受験生を前に、責任者と思しき男性がそう叫ぶ。

 

「今回の試験での課題は、指定された《アイテム》を迷宮内で獲得し、提出して貰うことだ!」


 非常に簡単な説明だが、分かりやすく、そして難しいな。

 始めて潜る迷宮でどのような素材が得られるか、またどんな魔物を相手にすれば良いのか魔物を相手にする以外の方法で手に入られるのか、など様々な部分で考えなければならないからだ。

 

「何か質問は?」


 試験官の言葉に、ぽつぽつと手が上がり、そのうちの一人を試験官が指名する。


「……迷宮内で獲得、ということは、別に魔物を倒さなくてもいいということでしょうか?」


 この言葉に試験官は、


「あらゆる方法を使って構わない。だが、冒険者を殺した場合は失格になる」


 そう答えた。

 前者と後者の部分に関連性はないように思われるが、その意味は皆に伝わった。

 これはつまり、他人から奪うこともありだ、ということだ。

 これは相当ハードな試験になりそうだ……。

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