第498話 像
「……問題なく戻って来れたな」
目を開くとそこは《初期職転職の間》だった。
相良さんがレッサードラゴンがいた方の部屋にすぐに行き、おそらくそこで俺たちの帰りを待っていただろう冒険者たちに声をかけに言った。
「……端の方に妙な像があるわね。女神像?」
雹菜がそう呟いたのでそちらを見てみると、行く時には見かけなかった像がそこに出現していた。
試しに近づいて触れてみると、
《どこに転移しますか? 《転職の塔入り口》《ゲッコー王国ルガー神殿》《ゲッコー王国王都ナビヘカ》」
そう表示された。
「おぉ、ここから転移できるっぽいぞ。しかも神殿と、王都へも行けるらしい」
「えっ、本当に!? ……本当だ。一人で触っても表示されるってことは、別にみんなで一緒じゃなくても行けるってことよね。相良さんは向こうの部屋に行ってるわけだし」
雹菜がそう呟く。
それから他のみんなも触れるが、全員にしっかり転移先が表示された。
しかし、その後に、一緒にいったメンバーでない冒険者を呼んできて、女神像に触れさせようとしたら困ってしまった。
そもそもその像が見えない、と言うのだ。
「……本当にここに像があるんですかい? ……あっ、確かに何かに触ったような感触がありますが……何も起こらないっすね……」
五、六人に協力してもらったが、そういうことのようだった。
「一度自分の足で行かないとダメってことか? そうなると結構厳しいかもしれねぇな」
賀東さんがそう言った。
ゲッコー王国まで行くにはまず、岩山のフロアを越えなければならない。
そしてあそこの敵は強力な蜥蜴人系の魔物が多かった。
あれを倒せ、と言われるとこのメンバーの素の能力でも結構きつかったのだ。
B級未満だとまず無理だということになってしまう。
しかし、色々な検証をしたいことを考えると、多くの冒険者が踏み入れられるようになった方がありがたいのだ。
それでとりあえず案を出してみる。
「このメンバーで守りながら何度か連れてくとかはどうですか?」
俺がそう言うと、賀東さんは少し考えてから、
「構わねぇが、数が限られるしな。でも最悪はそうするしかないか」
とため息をつく。
続けて雹菜が、
「どうにかこの女神像を使えるようにならないかしら……あっ、一人で触らせたけど、手を繋ぎながらとかはどう?」
と突拍子もないことを言い出すが、とりあえずやってみようということになった。
おっさんと手を繋ぐのはなぁ、とか文句を言いながら、賀東さんが筋骨隆々のC級冒険者と手を繋ぎ、C級冒険者の方が女神像に触れる。
すると……。
「おぉ! あります! 転移先! ゲッコー王国!」
と言い出した。
「よっしゃ、これなら行けるってことだな! ちなみに手を離すとどうだ」
「……転移先なくなりました」
「そうか……一回行った後とかならどうなるのかな? 試してみたいが、戻れなかったら怖いよな……」
「いえ、俺なら別にその時はその時でも。誰かが試した方がいいでしょう」
「まぁなぁ……ま、その場合はみんなで連れて帰って来りゃいいか。ただ今日のところはやめておこう。来週また向かうから、その時にお前もここに来い」
「わかりました」
そういうことになった。
それから、一旦解散し、俺と雹菜はギルドビルへ向かう。
その道すがら、
「……そういえば、明後日D級昇格試験があるけど、どうする?」
と唐突に聞かれた。
「そうなのか」
「ええ。一応申し込みはしておいたけど……試験自体は一日で終わるし、今の創なら百パーセント受かると思うから大した負担じゃないわよ」
「うーん……一週間後に響くのが怖いけど……」
「怪我しても治癒すれば問題ないわよ。今逃すとまた三ヶ月後くらいになっちゃうしね」
「そうだよな……じゃあ悪いけど、いってくるわ」
「ええ。その間に一週間後の調整とかは私がやっておくから」
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