第497話 戻れるか
賀東さんの話も最も、というか、この階層に来てかなり時間が経っている。
食料など消耗品関係については街に商店やレストランがあり、長期滞在も可能そうではあるが、一旦、地上に戻っておきたいのは全員の思いだった。
そのため、
「……まずはあの神殿に戻ってみねぇか? 街を出る時とかに止められるようなら……まぁ考えてみなきゃならねぇが」
賀東さんがそう言ったので、全員が頷いた。
*****
「……おぉ、救世主殿たち。どこに行かれるのですか?」
街の正門を出る時、門番の衛兵にそう尋ねられる。
それに対し、
「あぁ、ちょっとな。周辺を見てきたくて……」
賀東さんが曖昧に答える。
これは止められるか、と思ったが、衛兵はただ頷いて、
「そうですか。ここのところ街の周囲でも《虫の魔物》が出現しますからお気をつけて」
とだけ言って見送ってくれた。
「……特に問題なかったな?」
賀東さんが街から少し離れた地点でそう呟く。
「まぁ、ここに来てからずっと蜥蜴人たちは私たちに好意的でしたから、態度としてはおかしくはないですね。逃げ出す、とかどこかにいってしまう、みたいなのも特に疑ってはいない、と」
相良さんが少し考えてそう言った。
「どれくらい放置しても大丈夫なのかも試してみたいけど……それであまりにも長く放置しすぎて、メインイベントというのが消滅しても困るわよね。戻れたとして、どのくらいでここに帰ってくる?」
雹菜の言葉にみんな考え込む。
確かに、時間制限が実はあるとかありがちだしな。
《ステータスプレート》にはそういった記載は特にないため、何年でも放置できるとかもありうるだろうが、それに挑戦する意味はない。
進められるならさっさと進めておきたい。
「北海道の魔境調査の予定も迫ってきてるしな。一月以内にはどうにかしたいところを考えるとまぁ……一週間以内にまた戻ってきたいとは思う。戦力強化のためにここに来てるところあるしな」
今の初期職業のみしか選べない状態だと魔境開拓も中々難しそうだから、《転職の塔》を少しでも進めてさらに上級の職業になれるようにしたい、というのが基本的な目的だ。
そういう意味で考えると、種族選択ができるようなったため、当初考えていたこととは別の方向で、ある程度の余裕は出てきているとは言えるが、可能ならば、というところだな。
「じゃあ、そういうことにしますか……そもそも、戻れるかどうか分からないですけどね。全て解決するまで戻れない、というのもありがちではあります」
世良さんが悲観的な予想を述べ、みんなが苦笑する。
それで絶望するようなメンタルの者はここにはいないのが救いだった。
そういう場合には、なんとしてでも解決してやる、と思えない人間は、高位冒険者にはなれないということだろうな。
俺はどうか言えば……そんなに落ち込むようなことはないな。
頼れる先輩たちがいて、俺には確かにできる事がある。
誰も見たことのない迷宮の最奥に今いて、世界を左右するような瞬間に間違いなく立ち会えている。
そう思うとむしろワクワクする。
俺も、冒険者という職業にどっぷりと浸かっているのだな、と感じざるを得ない。
そして、俺たちは件の神殿まで辿り着く。
やはり、大した時間はかからなかったというか、距離が近かった。
数日などかからずに、普通に走って半日くらいでついてしまったのだ。
そして神殿の奥にある魔法陣に触れると、
《どこに転移しますか? 《初期職転職の間》《転職の塔入り口》》
という表示が浮かんできて、みんなで相談し、とりあえず《初期職転職の間》へと飛んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます