第11話 佳織の怪しさ

 妹……佳織が言うには、白宮雹菜という人は相当な有名人らしかった。

 日本でもトップクラスのギルド、《白王の静森》に所属するB級冒険者にしてアイドルもかくやという容姿も相俟って、若者の間では知らぬ者がいないほどの存在らしい。

 俺が全く知らなかったので、佳織からはまるで時代遅れのロートルのような扱いを受ける。

 そもそも俺とお前、そんなに歳離れてないだろうが……。

 確かに俺はそれほどSNSとかやらないけど。

 スマホは一応持ってはいるし、メッセとかはするがそれくらいで、動画サイトもSNSも面倒くさくていじらないタイプなんだよな……。

 後日、慎とかに聞いてみるか……。

 ともあれ。


「……そんなに有名人ならもう会う機会はなさそうだな。そのうち《白王の静森》のギルドビルでも訪ねて、何か菓子折り持ってく位で許してもらうか」


 と俺が呟くと、佳織は、


「えっ? 忙しいとは言ったけど、もう二度とこないともいってないでしょ? また今度訪ねるって言ってたよ」


「そうなのか? でも……俺、結構元気だし、もうそろそろ退院できるだろ?」


「魔力の問題だからそうみたいだね。お兄ちゃん、なんでか魔力空っぽだったみたいだし。スキルないのに不思議だね」


「スキルがなくたって魔力を外に出せるだろ? だから別におかしくは……」


「……? 無理だけど」


「は?」


「無理だよ。魔力はスキルを使わないと体外に出すことはできない。冒険者なら常識でしょ?」


「……いや、そんなはずは……」


 少なくとも、俺は出来る。

 学校の奴らも出来ていた……いや、あれはスキルを使っていたから、か?

 だがスキルが発動する前に出ていたように俺にはいつも見えていたのだが……そういうわけじゃないのか?

 わからない。

 考えてみれば、別に確認したこともなかったな。

 俺だって、魔力を外に出せるようになったのは三年も半ば過ぎてからだ。

 それまではひたすらにぐるぐる魔力を体内で動かすくらいだった。

 でも、授業でも普通に魔力を体外に出していたけど、誰も気づかなかったのか?

 いや……普通は、魔力って目で見えるもんじゃないんだったか。

 気配で分かる、不可視の力で……そうか。だから誰も突っ込まなかった……?

 

 色々と考えるべきことはあった。

 でも、とりあえずは、


「佳織、お前よくそんなこと知ってるな? 冒険者関係の知識なんて、一般人はあんまりないのに。特に魔力の細かい運用方法なんて、その気で本読まないとわからんと思うんだが……?」


 そう尋ねた。

 佳織の話は何か、おかしかった。

 というのも、冒険者にあまりにも詳しすぎるからだ。

 もちろん、現代社会というのは通信網が高度に発達しているから、どんな知識でも得ようと思えばいくらでも得られる。

 魔力の運用についてもそうだろう。

 ただ、いくら冒険者という存在が一般的とは言っても、あくまでもそれを目指す人間にとっては、というだけで、そうでなければ大抵の一般人は「あー、なんか迷宮潜って魔物と戦う人っしょ?」ぐらいのものである。

 それなのに……。

 

「あ、あのね、お兄ちゃん……その私……」


 佳織がおずおずと何か話そうとして、俺は、ふと思いつく。


「あっ! そうか、わかったぞ!」


 俺がそういうと、佳織はビクッとする。

 これはやっぱり……。


「お前、冒険者の追っかけなんだろ?」


「……は?」


 俺の言葉に、なんだか周囲の温度が僅かに下がったような気がする。

 そんな声を、佳織は出す。

 これはあれだ。

 死ぬほど不機嫌な時の佳織の声だ……。

 俺は慌てて、


「ち、違うのか? ほら、冒険者でもイケメンとか結構いるだろ。テレビに出てるやつとか、アイドルっぽいことしてるやつとか……そういうのの追っかけって、確か、冒険者のことめっちゃ詳しかったと思って……」


 そう言い募る俺に、佳織はじとっとした目をしばらく向け、最後にため息を吐いて、


「……はぁ。わかったわかった。それでいいよ……ともかく、ちょっと私、先生呼んでくるね。いきなり目が覚めて驚いたから話し込んじゃったけど、本当はまずそうしなきゃならなかったんだ」


「あ、あぁ……じゃあ、頼む」


 そして佳織は病室を出て行った。


「……まぁ、これでいいだろ」


 独り言を呟く俺。

 あんなこと言ったがそんなわけはないことは分かってる。

 大体どういうことなのかも。

 でも本人が言う気になった時に本人の口から聞くのがいいだろうと思って適当に茶化したのだった。


「なんていい兄貴なんだろうな、俺は……」


 だったらそもそも変な疑いをかけているような目などするなと言う話だな。

 そんなことを思った俺だった。

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