第552話 オークという魔物

 初音はやはり凄かった。

 ノーマルオークに関しては、撃ち漏らしはある程度しているものの、背後に回ればほぼ一撃で倒せている。

 とはいえ、これはまだここが低い階層である上に、相手がノーマルオークだからだ。

 それに、美佳の援護も入っているのも大きい。

 初音が囲まれそうな状態に至る前に、しっかりと《炎術》を飛ばしている。

 例えば、初音が戦っているところに向かって四方からオークが近づいてきたら、炎の壁を張って近づけさせない、とかな。

 俺と慎はといえば、そうやって接近を止められたオークなんかを軽く仕留めていっている。

 本来なら動きを止めるくらいに留めておいて、初音に最後の一撃を譲ったほうがいいのだが、思ったよりこの集落はオークの数が多いからやめておくことにした。

 何よりも大事なのは初音の安全だからな。

 冒険者たるもの、多少の危険は飲み込むべきだけれども、する必要ない危険に足を踏み入れる必要はないと言うことだ。


「……雑魚はほぼいなくなったか?」


 慎が周囲の気配を感じながらそう呟く。


「そうだな。まぁ集落の端の方に何匹かはまだいるが……その程度だ。後でやればいいだろう。中心部にいるのは……そこそこ強い個体だな。初音だけだと厳しそうだ」


「どうする? 一緒に戦う?」


 美佳が言った。

 俺たちは初音から少し離れた位置で彼女一人の戦いに援護を入れてる状況だ。

 それを変えるか、と言うことだな。

 

「どちらでもいいが……とりあえずは様子見かな。ここからどう動くかも考えられるようになったほうがいいと思うし。もちろん危なくなったら即援護だが」


「それもそうか……あ、中に入るのはやめたっぽいね」


 美佳が初音の動きを見ながら言う。

 初音は今、集落の中心部に存在する最も大きな木の藁で作られた家屋を観察していた。

 あの中に感じられる気配はそこそこ大きく、間違いなくこの集落のボス格がそこにいるのが分かる。

 ここで取れる選択肢としてまず思いつくのは、中に入ることだろう。

 そしてそのままボスを打ち取れればいいのだが、当たり前だが待ち伏せされている可能性が大きい。

 集落に侵入して最初こそ静かにオークたちを倒して行ったものの、今では大騒ぎだからな。

 外部の状況に気づいていないはずがないのだ。

 それでも一切そのボス格が出てこないと言うことの意味を、考えなければならない。

 まぁ、オークというのは繁殖力が強く、また支配欲も強い魔物だ。

 従って、配下のノーマルオークがいくらやられてもそれはそれで、と考えているところがある。

 もちろん、そのこと自体には切れているだろうが、自分さえ残っていればいくらでも補充できるという感覚なのだろうという感じなのだよな。

 実際、こういうところのボス格のオークを逃してその後の動きを検証したオーク研究家もいるのだが、周囲に存在するオークをその力で従わせていき、ある程度の数になった時点で再度集落を築く、という動きを見せるらしい。

 まぁなんというか、人間に似た社会性を見せる存在だ。

 迷宮の魔物が、ゴブリンたちのように別世界の人間のような存在だと考えれば、まぁさもありなんという感じだが。

 そんなことを考えていると、初音はこちらに向かって合図する。

 あれは……。


「なるほど、いぶり出せってね」


 美佳がそう呟いて、炎の矢を集落最大の家屋に向かって撃ち出した。

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