第553話 集落の主

 燃え上がる藁葺きの家屋を前にしばらく観察していると、そこから、


「グォォォォ!!!」


 という叫び声を上げながら、オークが飛び出してきた。

 同時に数体の別の魔物もオークを追いかけて来る。

 オークについてはノーマルオークではなく、上位種であることがその体躯と武装で理解できた。

 手には巨大な斧を持ち、体は革鎧に覆われている。

 戦士系の上位種だな。

 オークウォーリアだろう。

 通常のオークよりもその実力は一段も二段も上、と言われる魔物で、こうやってノーマルオークをたを従えて集落を作ることもあることで知られている。

 まぁ、そうは言っても、小さめの集落程度で限界だが。

 魔物の築く集落や砦というのは、その集落や砦を率いる魔物の格によって堅牢さが異なるが、オークウォーリアではこの程度しか作れないとというわけだ。

 オークキングまで行くと、城のような石造りの砦を作るらしいが、そこまでの魔物は迷宮だと余程の深層に行かなければ見ることができない。

 魔境なんかにはまだ可能性はあるが、確認はされていない。

 ともあれ、そんなオークウォーリアを相手に、初音はすぐに駆け出して、その首を狙った。

 一番油断している瞬間が、今だからな。

 流石に今の初音にとって、オークウォーリアくらいならそこまでの難敵ではないはず。

 そう思っていたが、


 ──キィン!!

 

 と、初音の攻撃はオークウォーリアの斧に防がれる。

 初音の攻撃を見切ったわけではなさそうで、たまたま振り上げようとしたそれに初音の攻撃が当たってしまった格好だな。

 これはついていない。

 しかし、問題なのはそれで初音の存在がバレてしまったことだろう。

 初音はオークたちの背後から、気配を消して襲いかかった。

 これが上手くいけば全く存在すら気取らせずに全員やれた可能性もあったのだが、もはやその目はない。

 こうなると正面からやるしかないが、そういった戦いを初音はあまり好まない。

 とはいえ、やるしかないのだが。


 覚悟を決めた初音が、短剣をギュッと握り、地面を踏み切る。

 オークウォーリアは大斧を振りかぶり、初音を狙うが、彼女はオークウォーリアにいきなり近づくことはなかった。

 そうではなく、周囲の魔物たちの殲滅から始めたのだ。

 オークウォーリアの周りには、ゴブリンメイジとゴブリンプリーストがいた。

 オークがゴブリン系を従えているのは割とありがちで、メイジやプリーストといった、術を使えるタイプがいることもある。

 オークにもそういうタイプはいるのだが、ウォーリアと同格になって来るのでその場合、さらに上位のオークがいる場合でないと一緒にということにはならないのだ。

 彼ら魔物の世界にも政治的争いはある……まぁ、他の世界の人間的存在が元であると考えれば何も不思議ではないのだが。

 

 こういう構成の場合、どれから潰すべきかいくつか選択肢があるが、初音は補助系を先に潰すことを選んだようだ。

 確かに初音にとっては、そちらの方が邪魔な存在と言えるだろうな。

 迫る初音に、ゴブリンメイジが術を構築し出す。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る