第554話 決着

 しかし、ゴブリンメイジの術が完成することはなかった。

 なぜか。

 それは初音が術の完成直前にその首を切り落としたからだ。

 オークの首を落とすには足りない腕力であっても、ゴブリンメイジのそれであれば可能だった。

 近くで驚くプリーストだったが、流石に蘇生なんてできるはずも無く、あたふたとしている。

 そこを初音は狙うべく、さらに近寄ろうとしたが、そんな彼女の眼前に壁のように巨大なオークウォーリアが立ち塞がった。

 流石に回復役がいなくなるとまずい、と考えるくらいの知能はあるらしい。

 ゴブリンプリーストはオークウォーリアの背後に隠れて立ち回る。

 初音もオークウォーリアを抜こうとするが、この状態では難しいようで、諦めてオークウォーリアに立ち向かうことを選ぶ。

 と言っても、真正面から腕力勝負することはない。

 少し下がって、手をかかげた。

 そこから風の刃がオークウォーリアに襲いかかる。

 《風術》のウインドカッターだな。

 初音は《闇術》と《風術》を収めている比較的万能型の斥候であり、だからこんなことが出来るのだった。

 ただし、威力はまだそれほど高くないようで、ウインドカッターの一撃でオークウォーリアに大ダメージをというわけにはいかないようだ。

 それでも初音は、細かな傷を少しずつ刻んでいく。

 オークウォーリアはそれが煩わしいのか、大斧を振り回し避けようとするも、不可視の刃に対してなすすべがない。

 そのため、風の刃自体に対抗するのは諦め、初音に向かって走り出す。

 ドタドタとした、不恰好なダッシュで、初音はそれを見て不敵に笑った。

 オークウォーリアがそんな動きをするのを待っていたらしい。 

 初音はそれから少し横に移動すると、そこからウインドカッターを放つ。

 けれど、オークウォーリアには命中せず、オークウォーリアはその一撃が失敗したものを考えたのか獰猛に笑った。

 しかし……。


「……ウガアァァ!!」


 と背後から叫び声が聞こえたのか、振り返る。

 するとそこには、ゴブリンプリーストが致命傷を負って倒れている姿があった。

 初音の狙いは、初めからこれだったわけだ。

 オークウォーリアの背後に隠れているゴブリンプリースト、そこからオークウォーリア自身に距離を取らせ、術によって排除する。

 オークウォーリアは耐久力が高く、何度、初音の術を食らっても致命傷にはなっていないが、ゴブリンプリーストの耐久力ではそうはいかない。

 まだ生きてはいるが、もはや戦力としての復帰は不可能だろう。

 それを理解したのか、オークウォーリアは、


「ブルァァアァァアッ!!」


 と叫び声を上げて、周囲も気にせずに初音の方に走ってくる。

 しかし、これもまた、初音にとっては予想内の行動だっただろう。

 オークウォーリアは初音の元に辿り着く直前に、何かに足を取られて転ぶ。

 そこには実のところ、初音が《闇術》で置いた低めのダークウォールがあった。

 頭に血が上ったオークウォーリアはそれに気づかずに、引っ掛かったわけだ。

 隠密系スキルも併用してわかりにくくしているのはあったものの、注意すれば気づけるレベルだった。

 けれど、もう遅い。

 初音は倒れたオークウォーリアに飛びかかり、その首に思い切り短剣を突き込む。

 オークウォーリアはそれによってびくり、と体を痙攣させ、そしてそのまま二度と目覚めることはなかった。

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