第338話 先へ
「……第三階層か。ここまで降りてきて大丈夫なのか? いや、最終的には俺たちが対応すれば問題ないんだろうけどさ」
周囲を見つめると、そこは鬱蒼と生い茂った森林の中だった。
一階層はまばらな木々が見えるくらいのしょぼい森だったが、ここはもう完全に森林と言ってい様子である。
見通しもあまり良くはない。
ただ、木々の隙間から穏やかな陽光が辺りに差し込んでいるから、暗い感じはしないな。
もっと下の方に行くとまた違ってくるのだが、ここくらいだと空気も含めて居心地の良い場所ではある。
ただ、魔物は当然の如く第一階層よりも強力なものが出現するし、見通しがよくないこともあって油断すると危険だ。
冒険者ランクで言えば、D級くらいないとソロだと厳しいかな、と言ったレベルである。
ここにはB級の
そんな雹菜が言う。
「……意外に創って過保護ね? 子供とか出来たら溺愛しそう」
「えっ、子供って……」
「霙は子供みたいなものでしょう。まぁ、従魔だからペットの方が近いかもしれないけど」
「うーん、まぁそう言われると……魔力も雹菜と一緒に注いだ訳だしな」
「そっ、それは……なんというか、恥ずかしいわね……」
「……私は惚気を聞かされるためにここについてきたのでしょうか? 帰っても良いですか?」
静さんが呆れたようにそう言った。
「ちょ、ちょっと! ステータスとか色々見るのにいてもらわないと! 霙のは創が見られるけど、魔物とかアイテムとかのは静しか見られないんだから!」
「……冗談です。分かってますよ。しかしお二人に子供が出来たら本当にそんな感じで教育方針の対立が起きそうですね」
「……そんなのは、遥か先の話よ……」
「ありえないとは言わないんですね……まぁ付き合ってればいずれそうなりますか。おっと、そんなことより、魔物がやってきましたよ。狙い通り……オークですね。ノーマルの」
言われた瞬間にスイッチが入ったように雹菜の表情が変わる。
まぁそもそも気づいてはいただろうが。
俺もまた、霙に指示を出す。
「……次の敵はあいつだ。行けるか? 霙」
「キュッ!」
オークの姿が見えると、俺はそれを指し示して言った。
二メートル近い身長に、脂肪の乗ったプロレスラーのような体型、その体の上には豚によく似た顔がくっっついている。
武具は特に持っておらず、これはラッキーと言えた。
場合によってはノーマルオークであっても棍棒とか持っていることもある。
自分で作ってるのか、その辺で拾っているのか、出現した時点で手にしているのか、そこら辺は謎だ。
ただ、再湧出の瞬間を観察したことがある者の言からすれば、最初から持っている個体も、そうでない者もいるらしいから、それぞれなのだろうな。
迷宮の魔物というのは、本当に謎だ。
ともあれ……今度は霙に《下級牙術》の方を使ってもらうか。
無術と氷術も気になるが、そちらは戦闘ではなく場で確認してからの方がいい。
今は確実にダメージを与えられそうな方が安全だろう。
「よし、じゃあ、霙。《下級牙術》であいつを攻撃してくれ!」
「……キュアァァア!!」
俺の指示を聞いて、目に力の入る霙。
そしてその体に、爪術の時と同じようなオーラが纏われる。
ただ、不思議だったのは爪術の時とは違い、体全体にうっすらとオーラが纏われたことだろう。
さらに、霙は地面を踏み切ると、その運動不足そうにも見えるずんぐりむっくりとした体からは信じられないような速度でオークまで迫った。
そしてオークの足元まで辿り着くと、即座に跳び上がり、大きく口を開く。
この時点で、オークはその速度に対応できず、ポカンとした表情をしていた。
しかし霙の動きは止まらない。
大きく開かれた口はそのまま、オークの首筋を思い切り噛みちぎる。
吹き出す血液に、オークは目を見開き、しかしどう見ても致命傷であったそれにより、オークはそのまま倒れていく。
それから数秒の間、オークの体はビクンビクン、と動いていたが、その瞳はその後、静に閉じられていった。
一撃だった。
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