第157話 ドライブ
「……しかしまた、随分と辺鄙なところにまで来たな……」
俺が車窓から景色をキョロキョロと周りを見ながらそう呟いたのは、そこが結構な田舎だからだ。
とは言っても、場所的には八王子市なので東京都内ではあるのだが、奥に行けば行くほど本当に東京都なのかここは?となってくるくらいに畑やら山やらが増えていくので、まぁそういうところだ。
駅前はそこそこ賑わっているんだけどな……全く寄ることなくこんなところまで来てしまった。
「仕方ないじゃない。例の《鑑定士》はここにいるんだから」
そう答えたのは、運転席に座って華麗なドライビングテクニックを披露している雹菜だ。
サングラスをかけて氷を想起させるような美しい青色に染まったスポーツカーを運転するその姿は、冒険者というよりは都会の洗練されたお姉さん感が凄い。
免許を取ったのはごく最近なのだが、その有り余る資金力によって簡単にこんな車も買えてしまい、また一般人とはかけ離れた身体能力によって、たとえ初心者であってもそうそう滅多なことでは事故など起こさない自信もあってのことだ。
普通、怖くて最初の車なんてそれこそ中古車がいいかな、とかなりそうなものだが。
俺だったらそうする。
俺も免許は一応取ったのだが、その怯えから未だに買えていない。
あまり高くなければ、今の俺でも買えはするのだが……やっぱりなぁ。
そもそも東京に住んでるとそこまで車の必要性を感じなかった。
雹菜的にはさっさと買った方がいい、一般人ならともかく、冒険者はあった方が確実に便利だということだったが……今回のように。
まぁ確かにいつも雹菜に送ってもらうというわけにも行かないしな……ただ、雹菜的にはこの車を自分が使ってない時ならいつでも使っていいというのだが、それはそれで怖いのだった。
「それなんだけど、都内にも……ってここも都内ではあるけど、もっと都会の近場にも鑑定業者はそこそこあるのに、こんなところまで来ないとダメだったの?」
後部座席に座っている樹が前に乗り出して尋ねてくる。
シートベルトしないと危ないぞ、とか言うべきなのかもしれないが、俺たち冒険者は耐久力が通常の人間とは違うので、おそらく、事故を仮に起こし、その結果思い切り車内に衝突し、そのまま外へ吹っ飛んで行っても死なないだろう。
さらに言うなら、さっきも言った通り、そもそも雹菜が事故る可能性はほぼゼロだ。
その上、この車は冒険者向けのカスタム車なので……安全性はお墨付きだった。
少なくとも銃弾くらいなら弾き返すらしい。
迷宮素材の面目躍如、と言ったところだな……と、まぁそれはいいか。
「鑑定業者は基本的にそれほどレベルの高いスキルを持ってるわけじゃないのよね。中級の、それぞれの専門に特化した《鑑定》を持ってる人物を集めてるギルド、というのが正確な実態だけど……それだと、創の持ってる《それ》は多分、《鑑定》するのが難しいと思うの」
雹菜が俺の膝の上にあるその物体を見る。
樹もそこに視線を向けて、
「……試験の時からおかしなもの持ってるな、と思ってたけど本当に《卵》なんだもんねぇ……。あの時の試験の合格者の一部は創を《親鳥》とか呼んでる人いるらしいよ」
「おい、それは初耳だぞ」
「まぁ、創に直接言う人なんて流石にいないからね。でもカズと巧が結構、聞かれる見たい」
「あの二人、あれで結構顔広いのな」
「なんだかんだ、冒険者歴は短くないし、元々それなりに面倒見はいい方だったみたいだからね。ただ、長く受からなかったからちょっと歪んじゃっただけで」
「そんな感じはするな……」
「あの二人は本当にいい拾い物だったわね……で、卵の話に戻るけど、それって分類的に何になるのかいまいち分からないのよね。《刀剣鑑定》とかの武具鑑定系ではないのはもちろんだし、かといって《薬品鑑定》でもないし、《素材鑑定》なら……と思うけど、あれってあくまでも使い道が分かるだけで、その物自体の詳細については意外と分からないものだからね……」
雹菜がそう言った。
「で、今回の《鑑定士》……いわゆる《万物鑑定》を持ってる人のところに行く、と。そんな人いるんだな」
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