第513話 群れ
「うわぁ……ウジャウジャいるな」
第四エリア、湖の畔を森の中からのぞいている俺と初音。
そこには大量の《首狩兎》が水を飲んだり、毛繕いをしていたり、爪の手入れをしたりしていた。
他の迷宮で出現する場合には、せいぜいが二、三匹程度のグループぐらいでしか現れないこいつら。
だが、この迷宮では群れの規模が違うらしかった。
本来の兎からするとどうなんだろうな。
まぁ、魔物と動物の兎は、見た目が似ているだけで別種の生き物だから比較しても意味はないかもしれないが。
「こんなにたくさんいると、まとめて襲いかかってこられたら詰む」
初音が嫌そうな表情でそう言った。
俺もそれには頷く。
「全くその通りだな。流石に延々と倒し続ける気にはならないぞ。無理じゃないかもしれないが……」
「え、いけるの?」
「まぁ……補助術使えばな」
身体能力をアップさせ、その場に立ったまま襲いかかってくる《首狩兎》を延々と倒し続ける。
ダメージはそこまで負わないはずだ。
耐久力も補助術で上がるからな。
また、一匹だけを倒す、となると俺には難しいだろうが、あそこまで的の数が増えれば狙いが微妙であっても大剣を振り続ければ当たるだろう。
あとは根比べということになる。
ただその場合は大きな問題があって、そんなことしていると試験終了に間に合わないということだ。
残り時間を考慮するに、ここでそんなに時間を食うわけにはいかない。
一応、俺もここが終わったら初音の狩りも手伝うつもりだしな。
ギブアンドテイクは《オリーブトレントの実》と《首狩兎》の討伐で成立しているわけだが、それに加えて勧誘した手前、少しでも印象は良くしておきたい。
まだ言ってないけど、ここがうまくいけば……。
そんなことを考える俺に、初音は言う。
「補助術使えるの?」
と意外そうに言った。
そういえばそれもまだ言ってない……というか、俺の能力についてはほとんど話していないな。
外部にどれを話すかというのは難しいのだ。
それでも補助術を使える、くらいのことは言って問題ないとは雹菜に言われている。
確かにあまり数は多くないものの、うちの美佳とかも使えるのを見れば、一つのギルドに一人くらいはいてもおかしくない程度だからな。
ただ俺のは強化率が普通の補助術と大きく異なるだけで。
「まぁな。そういえば初音って攻撃力の無さで悩んでいたよな。《首狩兎》はやれるのか?」
「簡単に首を落とせる、とは言わないけど普通にやれる。でもあの数だと思わなかったから……とりあえず、あの群れから一匹をうまく釣り出せれば……なんとか?」
「なるほど、そんな感じか……」
だとすれば、方法を考えなければならないが、どうしたものか……。
そう考えだした俺に、初音は、
「気配を悟られずに近づくだけなら難しくないから、一撃でやれるくらい力があったら楽勝。腕力ないのが残念」
「ん? そうなのか?」
「うん。何回も攻撃してたら周りに気取られるけど、一発でいけたらすぐに引けば大丈夫だから。腕力ないからできないけど」
「……腕力あれば出来るわけだ?」
「うん……もしかして補助術でいける?」
流石に勘は悪くなく、そう尋ねる初音に、俺は頷いた。
「絶対とは言わないけど、多分な……よし、試してみるか。それでいけそうなら、挑戦してみてくれないか? 危なそうだったら無理しなくていいから」
「わかった」
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