第514話 あっけない結末
「……これ、すごい」
俺が補助術をかけると、初音は目を見開いてそう言った。
「補助術かけられた経験は?」
俺の質問に初音は答える。
「ううん、ずっと一人でやってたから、ない」
「そうなのか……っていうか、今更だけど幾つなんだ?」
冒険者の大半は、冒険者学校を卒業してなる。
これはそうしないと知識不足で死ぬ可能性が高いからだ。
実践経験も浅いままに迷宮に潜れば、ゴブリンかスライムの餌食になる。
実際、迷宮がこの世界に出現した直後は、そういう事故が多発した。
みんな、舐めているのだ。
ゴブリン程度、スライム程度、子供でも何とかなるだろうと。
けれど実際にはそうはならない。
ゴブリンは強い。
一メートルと少しくらいしかない身長だが、その体で腕力は成人男性に匹敵するし、体が小さいが故に動きも機敏で、道具を扱う知能まである。
場合によってはグループで協力し合い、狩りをすることすらあるのだ。
もちろん、狩りの目的は人間である。
そんな相手に無策で挑めば、死しか待っていないのは言うまでもない。
スライムだって同じだ。
いくら叩いても元通りになる不定形の化け物が弱いはずがないのだ。
顔に飛び上がって顔面を塞がれれば、呼吸のできなくなった人間はその時点で終わりだ。
遠距離だって酸を作り出し飛ばしてくるのだから、普通は近づくことすら難しい。
そんな魔物相手に、何も知らずに向かっていくのは愚かな所業である。
けれど、それでも公的な迷宮に関してはそこに入ることを誰にも禁じていない。
小さな子供が一人で入ろうとしたら一応は止められるが、それを強制することは誰にもできない。
法制度がそうなっている。
だから、初音の年齢はいくつでもあり得た。
彼女は言う。
「……十四歳」
「……中二か……まだ子供じゃないか」
「そんなでもない。創だって若そう」
「俺はこれで十九だぞ。もう少しで二十歳だ」
「うーん……ちょっと老けてる。もうちょい上かと思った」
「……おい。まぁそれはいいか。それより、補助の調子だったな」
「うん、かなりいい。武器も余裕で振るえる」
短刀を抜いて動く初音からは、先ほどまで聞こえなかった風を切るような鋭い音が聞こえた。
「それだけの鋭さなら、《首狩兎》も一撃だろうな。あと、隠蔽系もかけてあるから、いつもより見つかりにくいはずだぞ」
「そうなの? 補助術で隠蔽って、聞いたことない」
「いや、一応……あるはずだ。ただ効果が気休め程度で使いにくいんだよ」
一般的なものは、な。
俺のはそこそこ役にたつ。
そもそも一般的なものだって、効果が低いのにはそれなりの理由がある。
単純に、スカウト系でない人間にかけても大した上昇率にならないからだ。
その点、初音はまさにスカウト系なので、一般的なものでも意味はあるはずだ。
「……ちょっとだけ、試してみる」
初音はそう言って、隠蔽系スキル……いや、アーツかな?を発動させて、森からそろりそろりと出て行った。
《首狩兎》たちは湖の畔に群れているため、まだどれも気づいていない。
そんな奴らから少しだけ離れた一匹に、ゆっくりと近づく初音。
そして……。
──ザンッ!
と、後ろから一撃加えて、そのまま死体を抱えてこっちに戻ってきた。
一連の作業は全て、無音で行われていて、事実、他の《首狩兎》たちはまるで気づいていないようだった。
「……ぶい」
戻ってきた初音は、《首狩兎》の死体を持って、俺にそう言ってピースした。
この少女の実力は本物だな、とそこで俺はよく理解したのだった。
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